企業に必要な職場のストレスチェックとは? 衛生管理者の役割は?

近年は技術の進歩により、職場で肉体的な危険にさらされたり病気やケガなどの労働災害が起こったりすることは少なくなりました。その一方で、ストレスが原因で病気を発症したり精神的に不安定になったりして労働災害と認定されるケースが増えてきています。そのため、2014年(平成26年)の6月から従業員が50名所属している職場では、ストレスチェックが義務化されました。

今回は、企業が行うストレスチェックにおける衛生管理者の役割についてご紹介しましょう。

  1. ストレスチェックの基礎知識
  2. 衛生管理者の役割
  3. 衛生管理者の資格について
  4. ストレスチェックに関するよくある質問

この記事を読めば、ストレスチェックを職場に導入する際に必要な衛生管理者の役割が分かります。衛生管理者の方や衛生管理者を目指している方は、ぜひこの記事を読んでみてくださいね。

1.ストレスチェックの基礎知識

はじめに、ストレスチェックの基礎知識をご紹介します。ストレスチェックをするとどのようなことが分かるのでしょうか?

1-1.ストレスチェックとは?

ストレスチェックとは、メンタルヘルスの不調を未然に防ぐことを目的に実施されるチェックです。労働安全衛生法の改定(第66条の10)により、2014年(平成26年)の6月より実施されるようになりました。現在、従業員が50名以上所属している事業所にはストレスチェックの実施と診断結果に基づく医師による面接指導などが義務化されています。

なお、従業員が50名未満の事業所は現在のところ、ストレスチェックは義務化されていません。しかし、実施するように努力することが求められています。今のところ、実施回数は健康診断と同じく年に1回であり、ストレスチェックの結果は本人にだけ通知される仕組みです。企業側には、「高ストレスを抱えた人が何人」というように、分析結果だけが知らされます。

1-2.ストレスチェックは誰によって行われるの?

ストレスチェックは、基本的に産業医が行います。この他、保健師や厚生労働省が定める研修を修了した看護師や精神保健福祉士もストレスチェックを行うことが可能です。現在、専属の産業医がいる企業では、産業医がストレスチェックを行うことができます。

また、保健師資格を持つ衛生管理者が職場にいる場合は、人事権のない衛生管理者ならばストレスチェックを行うことが可能です。なお、企業と契約を結んでストレスチェックを行ってくれる業者もあります。

1-3.ストレスチェックの受診が推奨される人とは?

ストレスチェックは、全従業員に実施するのが望ましいとされています。しかし、義務ではありません。従業員がストレスチェックを拒否する権利はあります。また、正社員の4分の3以下の時間しか勤務時間のないパート社員やアルバイト社員・休職中の社員は実施が義務付けられてはいません。

1-4.ストレスチェックをする目的とは?

ストレスチェックは、労働者が自らがどのくらいのストレスを抱えているかを自覚し、ストレスの軽減に努めること。企業側が社内のストレス要因を知り、職場環境の改善に努めるために実施されます。ストレスチェックは紙面か電子で回答ができ、電子版は厚生労働省の特設サイトからダウンロード可能です。

前述したように、ストレスチェックは無記名で行われ、その結果は受けた本人だけに知らされます。なお、企業側が本人の承諾を得ずに勝手に結果を把握したり、ストレスチェックの結果で職場の異動や産業医との面談を強制することはできません。労働安全衛生法第66条によって禁止されています。

1-5.ストレスチェックを行わない場合はどうなるのか?

従業員が50名以上所属している職場でストレスチェックを行わなかった場合でも、現在は罰則が与えられることはありません。ただし、ストレスチェックを怠った結果、従業員がストレス由来の病気になったり精神障害になった場合は、安全配慮義務違反が成立する可能性があります。

企業は、労働契約法第5条によって労働者への安全配慮をする義務が定められているため、それに違反した場合は多額の賠償金を支払はなければなりません。過去には上司が部下へ無理な残業を強要した結果、社員が抑うつ状態に陥って自殺をしてしまい、安全配慮義務違反が裁判で適応されたケースもあります。

2.衛生管理者の役割

この項では、衛生管理者がストレスチェックをする際に担う役割をご紹介します。ストレスチェックはまだ義務化されて4年目の新しい健康管理項目です。衛生管理者にはどのようなことが求められるのでしょうか?

2-1.ストレスチェックの実施方法を考える

ストレスチェックの実施が義務付けられている企業は、必ず衛生管理者も選任されています。安全衛生委員会が組織されている企業もあるでしょう。会社が実施を決めた場合、衛生管理者はそれをどのように実施するのかを定める役割を担います。

ストレスチェックによって明らかになる職場の問題は様々です。うつ病の危険性だけでなく、セクハラやパワハラが浮かび上がってくるかもしれません。ストレスチェックを実施する前に、衛生管理者は企業の経営者と話し合い、職場の問題点や社員の高ストレスが発覚した場合の対処法を明確にしておきましょう。そうしなければ、ストレスチェックを実施しても形骸化してしまいます。

2-2.ストレスチェックの職場理解を深める

ストレスチェックが義務化されて4年が経ちましたが、まだまだストレスチェックへの理解は進んでいません。結果が上司に筒抜けになってしまうのではないか、高ストレスを理由に職場の異動を申し渡されるのではないかと思っている方も多いことでしょう。衛生管理者は、ストレスチェックの目的や安全性の高さを従業員へ理解させ、ストレスチェックを安心して受けられるような職場環境を作る役割を担います。

  • ストレスチェックの実施は基本年に1回
  • ストレスチェックは産業医や保健師など医療従事者が行う
  • 結果は本人にのみ知らせ、職場が把握するのは集計や分析の結果のみ
  • 医師の面談は本人が自己申告をして行う
  • ストレスチェックの結果を理由に職場を移動させられることはない
  • ストレスチェックの流れを説明する(紙面や電子画面で回答・事務担当が集計・産業医らが結果を出し本人に伝える)

ということを中心に話をすれば、従業員の不安も消えるでしょう。

2-3.事務担当などを務め、結果を管理する

前述したように、ストレスチェックの実施者は医師や保健師・厚生労働省の定める研修を修了した看護師や精神保健福祉士でしかなれません。また、直接人事権を持つ人物は実施者や事務担当になることは不可能です。ですから、大部分の企業は実施者を外部に委託することになります。実施者は、調査票の回収やデータ入力などを行う実務事務担当者を指名することが可能です。衛生管理者が直接の人事権を持たない場合は、産業医から要請があれば事務担当者になることはできます。

ストレスチェックを丸ごと外部の業者へ委託した場合は、事務担当も業者が行ってくれるでしょう。衛生管理者は、ストレスチェックを実施する日程を定めたり、結果を管理する仕事を行います。ストレスチェックの結果は、5年間は保管が義務付けられているので、保管方法も考えておきましょう。

ストレスチェックを実施後、要望があれば社員と産業医との橋渡しもします。産業医と面談をする前に従業員の相談に乗ってあげてもよいでしょう。

2-4.注意点

ストレスチェックの目的や実施方法などは、企業の経営者側もはっきりと分かっていないケースもあるでしょう。衛生管理者は産業医やストレスチェックの委託を受けている業者と会社との橋渡し役を務め、ストレスチェックが職場の改善に行かせるような環境を作っていくことが大切です。1人では難しいならば、ストレスチェック実行委員会などを作るのもよいでしょう。

3.衛生管理者の資格について

衛生管理者は、従業員が安全に衛生的に仕事ができるように職場環境を整える仕事を担うことができる資格です。従業員が50名以上所属している職場には、職務内容に関わらず選任が義務付けられています。衛生管理者の主な職務は週1回の職場巡視や健康診断の実施と結果管理、社員の衛生教育などです。安全管理者と協力して安全衛生委員会を設置し、職場の安全衛生を高める活動をすることもあります。衛生管理者は、工学・理学・医学などを専攻する大学で所定の単位を履修し、厚生労働省の定める講習を受け、修了試験に合格すれば習得可能です。また、衛生管理に関する実務を一定期間務めた後で国家試験に合格しても取得できます。

衛生管理者の試験は、1か月に1回の割合で各地方にある安全衛生技術センターで実施されるもで、比較でき合格が容易です。

4.ストレスチェックに関するよくある質問

Q.保健師の資格を持つ衛生管理者ですが、ストレスチェックの実施者になることは可能ですか?
A.実施する職場の人事権を持たなければ実施者になることができます。

Q.高ストレスの方が数名いましたが、だれも産業医との面談を希望しません。大丈夫ですか?
A.衛生管理者は、悩みを相談しやすい雰囲気を職場に築くことも職務の一つになります。匿名で相談できる窓口をメールなどを利用して作ってもよいでしょう。

Q.経営者が高ストレスを抱いている方の名前を知りたいようです。
A.本人の断りなく結果を経営者に伝えてはいけません。

Q.ストレスチェックと健康診断を同じ日に行うことは可能ですか?
A.時間的に余裕があるのでしたら 問題はありません。

Q.会社の産業医が多忙を理由にストレスチェックの実務者を引き受けてくれない場合は、どうしたらよいのでしょうか?
A.委託を引き受けてくれる業者がいますので、利用してみるのもひとつの方法です。

おわりに

今回は企業に実施が義務付けられたストレスチェックについていろいろとご紹介しました。まだ実施されて日が浅いので、目的や結果の生かし方が分からない企業も多いと思います。衛生管理者の資格だけでは実施者になることはできませんが、社内にストレスチェックの目的やメリット・相談することの大切さなどは広めていくことができるでしょう。単にアンケート調査と同じようにならないように、結果を生かせるようなシステムを作ることが大切です。