福祉施設における衛生管理者の役割とは? 職務の最低基準はあるの?

福祉施設とは、子どもや高齢者・障碍者に福祉サービスを提供する施設の総称です。一昔前までは児童福祉施設や障碍者福祉施設が多かったのですが、近年では高齢者福祉施設が毎年のように増加しています。それに伴い、福祉施設で働く人々も増えてきて、労災も増加傾向にあるのです。

そこで、今回は福祉施設における衛生管理の重要性や、労災防止のために行うことなどを解説します。

  1. 福祉施設って何?
  2. 福祉施設における衛生管理とは
  3. 衛生管理者の資格を取得する方法
  4. 福祉施設の衛生管理に対するよくある質問

この記事を読めば、衛生管理の大切さもよく分かることでしょう。衛生管理者の資格取得を目指している方も、ぜひ読んでみてくださいね。

1.福祉施設って何?

福祉施設とは、前述したように子どもや障碍者・高齢者に福祉サービスを提供する場です。近年何かと話題になっている、保育所も福祉施設に分類されています。また、高齢者の増加に伴って高齢者向けの福祉施設が増加の一途をたどっており、介護士をはじめとして施設で働く人も同じように増加しているのです。

2.福祉施設における衛生管理とは

この項では、福祉施設における衛生管理の特徴や重要性を解説します。一般企業で行われる衛生管理との違いはなんでしょうか?

2-1.衛生管理とは?

衛生管理とは、労働者が健康的に働けるように職場環境を整えることです。職場環境を整えて利用者を感染症などから守るための衛生管理とは別種になります。
福祉施設は産業区分ではサービス業に分類されますが、労働災害が多く、衛生管理を的確に行うことが大切です。

2-2.衛生管理を行える資格とは?

衛生管理は、衛生管理者や安全衛生推進者が中心となって行います。従業員が50名以上所属している職場では、衛生管理者の選任が必要です。この衛生管理者とは専門の国家資格を取得した人であり、第一種・第二種どちらでも選任ができます。

なお、所属している従業員の勤務形態は関係ありません。正社員1名にパートやアルバイトが49人でも選任は必要です。また、福祉施設の中には、訪問看護施設など従業員のほとんどが職場に常駐していないところもあるでしょう。そのような施設でも、従業員が50名以上所属している場合は、衛生管理者の選任が必要です。

2-3.福祉施設における衛生管理の重要性

厚生労働省の調査によると、福祉施設は年々増加している第三次産業(サービス業)に従事する事業所の中でも、特に労災が多いところです。
福祉施設での仕事は、高齢者や子ども・障碍者の介助など肉体労働が多くを占めています。そのため、腰痛をはじめとする疾患や、介助中の事故が起こりやすいのです。また現在、高齢者福祉施設を中心に施設全般で人手不足が深刻な問題になっています。そのため、長時間労働が日常的に行われている施設もあり、労働災害の原因となっているのです。

腰痛などの疾患や長時間労働は、労働災害につながる可能性が高いとはいえ、従業員からはなかなか改善要求を出しにくいでしょう。特に、腰痛は「職業病だからしょうがない」という空気もあるようです。衛生管理者は、労災を防ぐために職場環境の改善を経営者にかけあうのも職務になっています。ですから、衛生管理がきちんと行われていれば、腰痛などの疾患や長時間労働に悩むことも無くなるでしょう。これらのことが、衛生管理者が行う職務の最低基準です。

2-4.衛生管理者の仕事

衛生管理者は、最低でも週に1回は職場巡視を行い、職場環境が従業員の健康を損ねていないか確認します。場合によっては従業員の相談に乗ることもあるでしょう。また、健康診断の計画や実施、結果の管理も重要な仕事です。健康診断は従業員の健康状態を知ることができる重要なものですから、同じ疾患が従業員に多発している場合は、速やかに経営者に連絡しましょう。必要ならば、産業医と従業員の橋渡しも必要です。この際、守秘義務は必ず守ってください。どんなことであっても口外してはいけません。

2-5.安全衛生教育の大切さ

衛生管理者の職務には、安全衛生教育も含まれます。前項で、福祉施設の従業員に腰痛が多いことを解説しました。腰痛対策は職場環境の改善も大切ですが、体の使い方を工夫するだけでも予防することはできます。ですから、腰痛対策として体の使い方や既存設備の使い方を教えるだけでも効果が期待できるでしょう。

また、従業員が目の前の仕事をこなすことに手いっぱいになっていると、介護している高齢者や子どもを巻き込んだ事故が発生しやすくなります。そのため、日常業務の中に安全衛生に関する教育やミーティングを行うKY活動が厚生労働省によって推奨中です。衛生管理者が中心となってKY活動を行えば、労働災害を減らす効果が期待できるでしょう。KY活動については、厚生労働省が「福祉施設の安全衛生対策」というリーフレットをPDF形式で配布しています。これを使って衛生教育を行うのもおすすめです。職場の従業員に配布してもよいでしょう。

3.衛生管理者の資格を取得する方法

衛生管理者は、前述したように国家資格です。取得するには理学部など指定の学部を卒業後、厚生労働省が定める講習を修了するか、安全衛生技術試験協会が主催する試験を受けて合格する必要があります。衛生管理者には一種と二種があり、一種はすべての職場で衛生管理を行うことが可能です。二種は小売業など危険が少ない職場で衛生管理を行うことができ、福祉施設は二種が衛生管理を行えます。

衛生管理者の試験を受けるには、衛生管理の実務経験が必要です。実務経験の長さは学歴によって異なりますので、協会のホームページを確認してください。二種ならば、最短で大学を卒業後1年の衛生管理に関する実務経験を経れば受験が可能です。試験は各地の安全衛生技術センターでほぼ毎月行われるため、比較的受験が容易でしょう。1年に何度も受験することが可能ですから、合格率も高めです。

試験内容などについては、こちらの記事に詳しい記述があります。

4.福祉施設の衛生管理に対するよくある質問

Q.腰痛などが労働災害と認められることはあるのでしょうか?
A.あります。福祉施設の労働に従事した結果、腰痛が発症したと証明できれば労働災害と認定されるでしょう。

Q.衛生教育を行う時間がまとまって取れない場合はどうすればよいのですか?
A.KY活動中に少しずつ行っていくという方法もあります。また、経営者にかけあって時間を作ってもらってもよいでしょう。

Q.施設を運営している最中に従業員が増え、50名以上になった場合はどうしたらよいですか?
A.50名を超えた時点で衛生管理者を選任してください。

Q.職場から衛生管理者の資格を取得するように言われましたが、従わなくてはなりませんか?
A.義務はありませんが、給与アップのチャンスでもあるでしょう。

Q.衛生管理者は正社員でなくては選任できませんか?
A.福祉施設など、 第二種衛生管理者が衛生管理を行える職場ならば、常駐することと長期間勤めることを条件に派遣社員でも選任が可能です。

5.おわりに

いかがでしたか? 今回は福祉施設の衛生管理についてご紹介しました。福祉施設の衛生管理というと、どうしても風邪を筆頭とする感染症予防などに力を入れがちですが、労働災害防止も同じくらい大切です。労働災害が発生すれば、従業員が仕事を続けられなくなることもあります。衛生管理者の職務は地道ですがとても大切です。