衛生管理の目的は? 〜衛生管理がされていないことによる問題点〜

衛生管理は、一体どんな目的があるのでしょうか。衛生管理がきちんとなされていない環境では、さまざまなリスクを負うことになります。それだけ、衛生管理は職場環境においてとても大切な役割を担っているのです。本来の目的をしっかりと把握しておけば、従業員たちにとって仕事がやりやすい環境になるでしょう。

本記事では、衛生管理の目的や、やるべきことなどについて解説します。

  1. 衛生管理の目的は?
  2. 衛生管理がされていないことによる問題点
  3. 職場における衛生管理でやるべきこと
  4. 衛生管理に関してよくある質問

この記事を読むことで、職場における衛生管理の役割などが分かります。気になっている方はぜひチェックしてください。

1.衛生管理の目的は?

衛生管理はどんな目的があるのでしょうか。

1-1.従業員を災害・疾病から守るための方策

職場における衛生管理は、そこで働いている従業員たちを災害・疾病から守るための方策です。主に、健康管理・作業管理・環境管理・衛生教育などを行います。職場ではさまざまな人が行き交い、中には危険物を扱うところもあるでしょう。従業員たちにきちんと指導を行うことで、災害や疾病から守るだけでなく、起こり得るトラブルを未然に回避することもできます。主な方策の内容を以下に記したのでぜひ参考にしてください。

  • 健康管理:疾病の早期発見を目的とした健康診断・要観察者や要保護者に対する事後措置
  • 作業管理:労働者の視点から作業自体を検討・改善するのが目的
  • 環境管理:作業場において労働者の健康に有害作用を与えないように環境測定を実施する
  • 衛生教育:労働者の心身を守るために必要な知識を与えるための教育

1-2.作業環境を安定させるための施設づくりや措置

従業員たちに対する措置だけでなく、より良い作業環境を作るのも衛生管理の大切な目的です。作業環境が悪いところではトラブルが起こりやすく、さまざまな悪影響を及ぼします。従業員たちに何らかの問題が起きてしまうと、会社の経営に大きな影響を与えることもあるでしょう。順調に運営を進めるためには、従業員たちの目線で働きやすい作業環境を作ることが大切です。そのために必要な施設を作ったり、措置を講じたりすることも衛生管理の目的となります。

1-3.健康を保護するための管理

安全管理は危険な労働災害などから労働者の身を守るための管理ですが、衛生管理は違う目的があります。有害物質や騒音など人体に悪影響を及ぼすものから労働者を守り、健康を保護するための管理が衛生管理です。この違いをしっかりと把握しておかなければなりません。そして、労働者の安全面と衛生面において最低限守らなければならない基準について定めたのが労働安全衛生法となります。この法律によって、事業主は労働者の安全衛生管理を実施するように義務づけられているというわけです。

1-4.食品を扱う現場では衛生管理が必要不可欠

「なぜ衛生管理が必要なのか?」と疑問を抱いている方は多いでしょう。あらゆる職場において衛生管理は重要な役割を担っていますが、食品を扱う現場では特に必要な方策です。食品衛生管理は食品・設備と従業員にポイントが分けられます。食品を扱う現場は製造した食品が消費者のもとに届けられるため、従業員自体が菌を持ち込んではいけません。最近は、服の繊維や装飾品の一部などが混入するといった事件がよく起きています。外部からの汚れや細菌を持ち込まないようにするためには、衛生管理を徹底することが重要です。

2.衛生管理がされていないことによる問題点

ここでは、衛生管理がされていないことによる問題点をいくつか紹介します。

2-1.法律違反として罰則が科せられる

前述したように、衛生管理は安全衛生管理法で事業主に義務づけられています。労働者の安全衛生管理を怠った結果、労働災害が発生すると法律違反として罰則が科せられることになるでしょう。労働安全衛生法119条・120条違反として、事業主に6か月以下の懲役または50万円以下の罰金などが科せられる可能性があります。刑事上の罰則として、刑法221条により業務上過失致死傷罪が科せられる可能性もあるので注意が必要です。さらに、5年以下の懲役または禁錮、100万円以下の罰金などの重い罪に問われることもあるでしょう。

2-2.労働災害の発生リスクが高まる

事業主が労働者の衛生管理を怠ると、労働災害の発生リスクが高まる恐れがあります。実際に、労働災害の原因は衛生管理や安全管理の体制がずさんであることが多いのが事実です。労働者を危険にさらしてしまうのはもちろん、事業主に対しても大きなリスクを負うことになります。たとえば、経験の浅い労働者への対応がきちんとされておらず、不適切な作業によってケガをしたり、死亡事故を起こしたりするなどです。働く人たちの目線になって環境づくりを行わなければ、働きにくい環境となり、さまざまなリスクが発生することになります。

2-3.会社・工場自体の運営に響く

衛生管理がきちんとなされていない職場環境では、労働災害が発生しやすくなり、その結果、会社や工場自体の運営に大きな支障をきたすことになります。労働災害の規模が大きくなれば、社会的信用を失い、運営が行き渡らなくなるでしょう。また、従業員側も不満がどんどんたまり、モチベーションが下がってしまいます。さらに、労働災害の発生からもとの状態になるまで時間がかかるほど、作業が滞ってしまい経営的にも大損害を受けることになりかねません。つまり、労働者だけでなく、事業主に対しても悪影響を及ぼすことになることを心に留(とど)めておきましょう。

2-4.コストがさらにかかってしまう

衛生管理がしっかりなされていないと、コストが想定以上に膨らんでしまうことがあるという問題点もあります。衛生管理は労働者が働きやすい環境にする・労働災害が発生しないための措置を施すという目的がある大切な方策です。きちんと衛生管理がなされている環境では無駄なコストを省き、余計な部分に力を入れずとも労働者が働きやすい環境づくりに励むことができます。しかし、衛生管理を怠っている事業場は環境を把握できていないため、無駄な部分がたくさんあるでしょう。また、労働災害が発生した場合、さまざまなコストが発生する危険性があります。不測のコストを削減するためにも、衛生管理を徹底しなければなりません。

3.職場における衛生管理でやるべきこと

それでは、職場における衛生管理でやるべきことを解説します。

3-1.衛生管理の基本となる「5S」

まずは、衛生管理の基本である整理・整頓・清掃・清潔・躾(しつけ)といった5Sに注目してください。基本がしっかりとなってなければ、衛生管理を徹底することはできません。それぞれのポイントを以下にまとめました。

  • 整理:必要なものと不要なものを区別し、必要なもののみ保管する
  • 整頓:必要なものを必要なときにすぐ使用できるよう決められた場所で管理する
  • 清掃:ゴミ・汚れ・異物を除去するため、定期的に清掃する
  • 清潔:清潔な身だしなみなど、微生物学的にもきれいな状態にする
  • 躾(しつけ):知識の習得とルールを守ることの習慣づけをする

3-2.管理者・推進者などを選任する

安全衛生管理法によって、事業主は安全衛生管理のルールを作る際に中心となって実施する担当者をそれぞれ選任しなければなりません。そして、衛生管理の役割を担うのが衛生管理者です。衛生管理者を含め、安全管理者や産業医などを選任し、それぞれがきちんと役割を担うことで労働者の安全が守られることになります。また、管理者・推進者などを選任した後は、委員会を設置しなければなりません。委員会は事業の規模や業種に応じて組織され、さまざまな意見を聴取する場です。問題点を早くに見つけ出し、トラブルが発生する前に措置を講ずるための重要な場となります。

3-3.健康診断を実施する

衛生管理のために行うべきことは、労働者の健康診断です。健康診断は1年に1回、定期的に実施しなければなりません。健康診断は労働者側も受診しなければならない重要なことです。また、新しい従業員を雇い入れる際にも健康診断を実施する必要があります。健康診断を実施した後は、その結果を受診した労働者に通知するとともに、記録・保存が必要不可欠です。また、健康診断の結果に問題がある場合は、医師から意見を聞き、必要な措置を行うことが重要となります。

3-4.最近注目されている過重労働・メンタルヘルス対策

最近、ニュースでも話題になっているのが過重労働や精神的ストレスなどの問題です。そのため、過重労働やメンタルヘルス対策もしっかりと行っていかなければなりません。
過重労働による健康障害の対策としては、労働時間の適切な把握や休日労働の削減が大きなポイントとなります。事業者は労働状況を常に把握し、一定時間以上の長時間労働者などに対して医師による面接指導を行うことが大切です。メンタルヘルス対策としては、心理カウンセラーを設置するなどメンタルヘルスケアの推進措置を講じるように努めましょう。

3-5.快適な職場をつくるために考える

従業員がどうすれば気持ちよく快適に仕事ができるのか考えるのも、事業主ができる衛生管理です。現在の作業環境に不満がないかカウンセリングを行ったり、作業方法を改善したりするなどの対策があります。常に現場の状況を把握し、どうすれば快適な職場環境になるのか責任者や事業主本人が考えなければなりません。衛生管理者は労働者と事業主をつなぐ大切な役割を担っている役職でもあります。

4.衛生管理に関してよくある質問

衛生管理に関する質問を5つピックアップしてみました。

Q.食品衛生の5Sとは?
A.衛生管理における5Sの食品衛生バージョンです。食品衛生の5Sも整理・整頓・清掃・清潔・躾の5つで構成されますが、内容に違いがあります。それぞれの具体的な内容は以下のとおりです。

  • 整理:必要なものと不要なものに仕分け、不要なものは廃棄、必要なものは決められた場所に置く
  • 整頓:置き場所を決めて使用後はその場所に戻す
  • 清掃:ゴミ・汚れ・異物を排除する
  • 清潔:外観だけでなく微生物的に問題がない状態
  • 躾:衛生管理についての教育

また、最近では清掃から洗浄と殺菌を独立させた食品衛生の7Sという考え方が出てきました。

Q.拭き取り検査とは?
A.食品衛生のトラブルでよくあるのが食中毒です。食中毒の原因となる微生物は目視で確認できないため、洗浄・消毒の効果を確かめる科学的方法が拭き取り検査となります。また、拭取検査の種類は、細菌検査とATP測定による清浄度検査の2種類です。この検査を行うことで、洗浄・消毒後の手指や調理器具に微生物・植物がどのくらい残っているのかが分かります。

Q.安全衛生管理体制を整備する際のポイントは?
A.企業の中に安全と衛生を最優先するための安全衛生文化を根づかせることです。事業主が主体となって安全衛生管理体制の構築に努めることで、その下にいる責任者や従業員も意識を高めることができます。自律的に安全衛生対策が推進される仕組みが確立できるというわけです。最近では、労働安全衛生マネジメントシステム(OSHMS)の導入を勧める企業が増えてきました。

Q.健康の保持増進措置に必要なことは?
A.作業環境の管理・作業の管理・労働者の健康管理といった3つが大きなポイントになるでしょう。作業環境の管理では、法律で定められた業務を実施するため、作業環境の測定を実施し記録・内容を保管します。作業の管理では労働者が行う作業をさまざまな方面から管理し、労働者の健康管理では従事する作業内容に応じた形で健康診断を定期的に実施する措置です。

Q.衛生管理者の選任数は?
A.選任しなければならない衛生管理者の人数は、事業場の規模によって異なります。たとえば、50人以上200人以下の事業場は衛生管理者が1人ですが、201人以上500人以下の場合は衛生管理者が2人です。労働者の数が増えるほど、衛生管理者も増やさなければなりません。

まとめ

衛生管理は、従業員を災害・疾病から守るための方策です。従業員が安心して働けるように、快適な職場環境を作ったり、健康を保持するために健康診断を実施したりすることになります。きちんと衛生管理を行っておかなければ、労働災害のリスクが高まるので注意しなければなりません。大切なのは、事業主から進んで衛生管理を行うことです。まずは、現在の職場がどのような環境になっているのか現状を知るところから始めましょう。