労働安全衛生法の罰則内容が知りたい! 違反するとどうなるのか?

労働安全衛生法は、労働者の安全と健康を確保し、快適な職場環境づくりを促進することを目的として定められた法律です。もし、職場が労働安全衛生法に違反している環境であれば、法律違反として罰則が科せられることになります。その罰則には、具体的にどのような内容があるのでしょうか。本記事では、労働安全衛生法の罰則を詳しく解説します。

  1. 労働安全衛生法の目的を知ろう!
  2. 労働安全衛生法の罰則は?
  3. 労働安全衛生法における違反とは?
  4. 労働安全衛生法に関してよくある質問

この記事を読むことで、労働安全衛生法の罰則と違反内容が分かります。どんな内容が罰則の対象になるのか、知りたい方は要チェックです。

1.労働安全衛生法の目的を知ろう!

最初に、労働安全衛生法がどのような法律なのか、概要と目的をチェックしておきましょう。

1-1.労働安全衛生法は労働者の安全と衛生基準を定めた法律

労働安全衛生法を簡単に説明すると、労働者の安全と衛生について基準を定めた法律のことです。労働災害防止計画や安全衛生管理体制など、第1章から第12章までで構成されています。成立の背景には高度経済成長期で変化した労働環境により、大規模工事や生産技術の確信から毎年6,000人以上の労働災害死亡者が発生しました。悪化した労働環境を整えるために、労働者の安全と衛生基準を定め、維持し続けることが大切です。

1-2.労働安全衛生法の大きな目的は2つ

罰則や違反にも関係していることが、労働安全衛生法の大きな2つの目的です。それは、「職場における労働者の安全と健康を確保すること」、「快適な職場環境を形成すること」にあります。この目的を満たしていないケースが、罰則や違反につながるのです。また、この2つの大きな目的を達成する手段として、以下の安全衛生対策があります。

  • 労働災害の防止のための危害防止基準の確立
  • 責任体制の明確化
  • 自主的活動の促進の措置

1-3.労働者がいる場所が法律の適用対象

労働安全衛生法は労働者の健康と安全を守ることが最大の目的なので、労働者がいる事業所が法律の適用対象となります。事業場を単位として、その業種・規模などに応じ適用されることになるのです。また、同一の場所にあるものは原則として1つの事業場となり、場所的に分散しているものは別個の事業場とみなされます。

1-4.2015年の改正案でストレスチェック制度が義務化された

労働安全衛生法は、時代の流れによって変化しています。2014年に改正が公布され、順次施行されているのです。また、近年、厚生労働省は働き盛りといわれる世代の死因第1位が自殺ということもあり、労働者のストレスによるメンタル不調・精神障害発症の防止策に注目しています。そのため、2015年12月からはストレスチェック制度が義務化されました。企業は労働者のストレス度合いを把握し、産業医・医師・保健師などによるストレスチェックを行わなければなりません

2.労働安全衛生法の罰則は?

それでは、労働安全衛生法の罰則内容について解説します。

2-1.10年以下の懲役または300万円以下の罰金

重度の健康障害を生ずる化学物質を製造・輸入・使用・提供した場合は、3年以下の懲役または300万円以下の罰金刑が科せられることになります。労働安全衛生法は刑法なので、懲役刑の対象になるのです。罰則の中では、この内容が最も重い懲役刑になるでしょう。化学物質は、労働者が伝染病や疾病などにかかる恐れがあるため、厚生労働省の命で就業を禁止させられるケースもあります。

2-2.6か月以下の懲役または50万円以下の罰金

安全衛生教育実施違反・病者の就業禁止違反・健康診断等に関する秘密漏えいの場合は、6か月以下の懲役または50万円以下の罰金を科せられることになります。労働安全衛生法によると、事業者は労働者を雇い入れた際、安全または衛生のための教育を受けさせなければなりません。そのため、きちんと教育されていない場合は、罰則の対象になります。また、インフルエンザなど病気になった場合は就業禁止(自宅待機)にする・健康診断や面接指導による労働者の秘密は厳守するという決まりもあるのです。これらを「知らなかった」では済まされないので、事業者(責任者)は十分に注意する必要があります。

2-3.50万円以下の罰金

懲役刑にはなりませんが、50万円以下の罰金が課せられるケースはたくさんあります。50万円以下の罰則対象となる内容は、以下のとおりです。

  • 衛生管理者の未選任
  • 産業医の未選任
  • 衛生委員会の未設置
  • 労働災害防止措置違反
  • 安全衛生教育実施違反
  • 健康診断の実施違反
  • 健康診断結果の未記録
  • 健康診断結果の非通知
  • 法令の非周知
  • 書類保存実施違反
  • 書類の未保存・虚偽の記載

2-4.労働者の安全と健康が守られない場合は罰則の対象になる

罰則の内容を説明してきましたが、基本的に、労働者の安全と健康が守られない場合は罰則の対象になります。事業者は、労働災害の防止のために最低基準を守ることだけが役目ではありません。快適な職場環境を提供し、労働条件の改善を通じて労働者の安全と健康を確保していくことが最大の責務となります。つまり、安全で衛生的な作業ができないような環境や、快適な環境づくりの努力がみられない場合は罰則の対象になるのです。

2-5.罰則の対象者は事業者・責任者

基本的に、労働安全衛生法の罰則対象となるのは、事業場の責任者です。罰則の対象になれば、責任者が司法処分されることになります。責任者=法人代表者とイメージする方が多いですが、場合によっては中間管理職(部長職クラス)が懲役刑の対象になることもあるのです。企業規模によっては、法人対象者が労働者全員の管理が十分にできないケースがあります。その場合は、管理職がその責務を代行していることになり、起訴対象になるというわけです。中間管理職は、自部門メンバーの健康管理には十分に注意する必要があります。

3.労働安全衛生法における違反とは?

ここでは、実際に起きた労働安全衛生法における違反を紹介します。

3-1.近年問題になっている「強制労働」

最近、ニュースなどで「労災」という言葉をよく耳にすると思います。特に、社会問題になりつつあるのが残業などの過剰労働・強制労働です。強制労働とは、暴行・脅迫・監禁そのほか精神または身体の自由を不当に拘束する手段によって、労働者の意思に反した労働を強制することを指しています。該当する手段によって労働させられた場合は、労働安全衛生法の違反です。労働者が嫌がっているのに、無理やり労働させられたことになります。過剰労働・強制労働によって命を落とした方もいるので、厚生労働省も注目している違反例といえるでしょう。

3-2.労働者の健康を把握する「定期検診」が実施されていない

事業場の責任者は、労働者の健康状態を常に把握しておかなければなりません。しかし、定期的な健康診断を行う義務があるのに実施されていない・健康診断にかかる費用を事業者が負担していないなどの事例があります。なお、常時50人以上の労働者を使用する事業場では、定期健康診断結果報告書を所轄労働基準監督署に提出する義務が生じるのです。健康診断を実施するのはもちろんのこと、きちんとその報告書を提出することまでが、事業場の責任となります。

3-3.危ない場所で作業をさせた死亡災害

平成28年3月の送検事例によると、危ない場所で作業させた上に死亡事故を起こした死亡災害があります。急な勾配がある場所での草刈作業において、労働者に崩落防止用の上部部分を作業床として使用させなかった・墜落防止措置を講じることなく作業を行った結果に起きた災害です。危ない場所にも関わらず、それなりの措置をしていませんでした。措置をしっかり行っておけば、死亡事故にまで至らなかったかもしれません。

3-4.労災に関する虚偽内容の報告書を提出

東京の八王子で、労災かくしを行った防水工事業者が書類送検されました。書類送検された防水工事事業者は、全治3か月の大ケガをしたのにも関わらず、その労働者は別の事案で被災したという虚偽内容の報告書を提出したのです。虚偽内容の提出は、もちろん違反の対象となります。違法な状態で作業を行わせたというケースも、書類送検の対象なので十分に注意しなければなりません。

3-5.最低賃金の不払いも問題になっている

長時間労働と同じく、近年、問題としてあがっているのが最低賃金の不払いです。各都道府県によって、最低賃金が決められていますが、賃金を支払わない事業場があります。また、労働基準監督官が賃金台帳の提出を求めたことに対し、虚偽の記載をした台帳を提出したのです。これは、最低賃金法違反の事実を隠ぺいしたことになります。賃金不払いは、労働安全衛生法の違反対象にもなるので気をつけなければなりません。

3-6.違反防止のためには「衛生管理者」が必要

労働安全衛生法に違反しているかどうか、事業場の規模や労働者の数が増えるほど、なかなか簡単に確かめることができなくなるでしょう。そういうときこそ、専門家となる「衛生管理者」が必要です。衛生管理者は、主に、作業環境の管理・労働者の健康管理・労働衛生教育の実施・健康保持増進措置などを行います。労働安全衛生法に基づいて、労働者の健康とより良い職場づくりを行い維持することが目的です。なお、衛生管理者は常時50人の労働者がいる事業場に必ず設置しなければなりません。

4.労働安全衛生法に関してよくある質問

労働安全衛生法に関する質問を5つピックアップしてみました。

Q.労働者にはどのような教育をすべき?
A.労働安全衛生法によると、安全衛生教育の実施が義務づけられています。たとえば、各事業活動において必要な資格を有する業務の免許や技能講習・衛生のための特別教育などです。特に、クレーン運転など専用の機器を操作する際は、必ず技能講習が必要となります。技能講習をきちんと実施していなかったせいで、操作ミスなどによる事故が起き、労働安全衛生法の違反になってしまうのです。事業者はもちろんのこと、労働者にも教育を受けさせることが必要となります。

Q.重大な労働災害が発生した後の対策は?
A.重大な労働災害が発生した場合は、再発を防止するための措置・対策が必要です。まずは、事業者に対し、その事業場の安全・衛生に関する改善計画(特別安全衛生改善計画)を作成しなければなりません。作成したものは、しっかりと厚生労働大臣に提出します。提出しても適切でないと判断された場合は、計画を随時変更していかなければならないのです。

Q.衛生委員会はどんなもの?
A.労働災害防止の取り組みを一体となって行うことが、衛生委員会設置の大きな目的です。業種を問わず、常時50人以上の労働者が在籍している場合は、衛生委員会の設置が義務づけられています。法律に基づいて設置されていない・きちんと機能していない場合は違反の対象となるので要注意です。また、衛生委員会は議長・衛生管理者・産業医・事業場の労働者で衛生に関し経験を有する者で構成されます。

Q.衛生管理者の選任義務とは?
A.衛生管理者の選任義務は、事業場の規模(労働者数)によって選任しなければならない衛生管理者の数が異なります。事業場の規模における衛生管理者の選任数は以下のとおりです。

  • 50人以上~200人以下:衛生管理者1人
  • 201人以上~500人以下:衛生管理者2人
  • 501人以上~1,000人以下:衛生管理者3人
  • 1,001人以上~2,000人以下:衛生管理者4人
  • 2,001人以上~3,000人以下:衛生管理者5人
  • 3,001人以上:衛生管理者6人

Q.どうすれば衛生管理者になれるのか?
A.衛生管理者になるためには、公益財団法人 安全衛生技術試験協会が実施する国家試験に合格する必要があります。試験は年に1回行われていますが、受験資格が決まっているので誰でも受けられるわけではありません。試験の概要に関しては、安全衛生技術試験協会のホームページをご覧ください。

まとめ

労働安全衛生法は、労働者の健康と安全を守るために制定された法律です。労働者を抱える事業場がやるべきことや、労働者のためにすべきことが記載されており、法律に違反しているとみなされれば罰則の対象となります。中には、10年以下の懲役または300万円以下の罰金が科せられるケースもあるので、事業場の責任者は十分に注意しなければなりません。また、労働安全衛生法に基づいた職場にするためには、衛生管理者の設置が重要になるでしょう。衛生管理者は、労働者たちの健康と安全を守る大切な役割を担います。