労働衛生の実務とはどのようなもの? 無資格でも労働衛生業務は可能?
労働衛生とは、労働者が健康を損なうことなく衛生的に仕事を行うことができるように、職場環境や労働条件を整えることです。従業員が50名以上所属している事業所では、労働衛生の職務を行う衛生管理者の選任が義務づけられています。衛生管理者の資格を取得するには、一定期間、労働衛生の実務経験が必要です。では、どのような職務が労働衛生の実務に該当するのでしょうか?
そこで、今回は労働衛生の実務とはどのようなものかを解説します。
この記事を読めば、衛生管理者の資格取得を目指す場合、どのような職務を行えばよいのかも分かるでしょう。衛生管理者の資格取得を目指している人は、ぜひ読んでみてくださいね。
1.労働衛生の基礎知識
はじめに、労働衛生の定義や重要性、労働衛生に関する法律などについて解説します。なぜ、労働衛生は必要なのでしょうか?
1-1.労働衛生の定義
前述の通り、労働衛生とは労働者が健康かつ衛生的に仕事が行えるよう、職場環境や労働条件等を整えることです。厚生労働省では、労働衛生の職務を以下の3つのカテゴリーに分け、労働衛生の三管理と称しています。
- 作業環境管理
- 作業管理
- 健康管理
また、労働衛生を的確に行い、従業員の労働環境や健康を守れるように労働安全衛生法という法律が定義されているので、社会人は一度目を通しておくとよいでしょう。
1-2.労働衛生の重要性
労働衛生が守られなければ、労働者の健康や衛生状態はどうしてもおろそかになります。近年問題になっている、過重労働やパワハラ・セクハラも労働衛生をないがしろにした結果、といえるでしょう。技術の進歩により、労働中に命を落とすようなケガや事故が発生する危険性は低くなりました。しかし、その一方で過重労働やパワハラ・セクハラが原因の労働災害や離職は増えています。労働者が安心して働き続けるためにも、労働衛生は重要です。
1-3.労働衛生の職務を行える人とは?
労働衛生全般を行えるのは、国家資格である衛生管理者の資格を有している人です。前述の通り、従業員が50名以上所属している職場では、衛生管理者を選任する義務があります。従業員が50名未満の場合は、選任義務はありません。その代り、労働衛生の実務管理の経験者を「安全衛生推進者」として選任し、労働衛生の職務を行います。
また、
- 看護師や准看護師の業務
- 建築物環境衛生管理技術者の業務
- 各種作業主任者の業務
も労働衛生実務の一環です。そのため、看護師・准看護師・建築物環境衛生管理技術者・各種作業主任者の資格を活用して仕事をしている人は、労働衛生の実務を行っていることになります。
2.労働衛生の実務とは何か?
この項では、労働衛生の実務について解説します。どのような実務があるのでしょうか?
2-1.衛生管理者が行える職務とは?
衛生管理者は、以下のような職務を行います。
- 週に1度以上の職場巡視
- 健康診断の計画と実施
- 健康診断の結果管理
- ストレスチェックを実施する際の補佐業務
- 衛生委員会(安全衛生委員会)の設置と運営
- 衛生教育
これらの仕事は、資格を取得しなければできないというわけではありません。ですから、衛生管理者だけでは職場の衛生管理が十分にできない場合は、無資格者が衛生管理者の職務をサポートすることもあるでしょう。また、安全衛生推進者の仕事もほぼ同じです。
2-2.その他の資格保持者が行える労働衛生実務
前述の通り、看護師・准看護師・保健師・建築物環境衛生管理技術者・各種作業主任者の業務も労働衛生実務に含まれます。ですから、これらの資格を取得して職場で資格を活用して働いている場合は、労働衛生の実務を行っていると考えてもよいでしょう。実際、各種作業主任者が実務経験を積んで衛生管理者の資格を取得するケースもあります。
2-3.衛生管理者の受験資格を得るための実務経験とは?
衛生管理者の資格を取得するには、安全衛生技術試験協会が主催する試験に合格する方法が一般的です。試験を受けるには一定の実務経験が必要になります。この実務経験とは、前項でご紹介した衛生管理者の業務及び、「2-2.」でご紹介した資格保持者の業務です。このほか、安全衛生技術試験協会では、
- 作業環境の測定等作業環境の衛生上の調査の業務
- 作業条件、施設等の衛生上の改善の業務
- 労働衛生保護具、救急用具等の点検及び整備の業務
- 衛生教育の企画、実施等に関する業務
- 労働衛生統計の作成に関する業務
このような業務も、労働衛生の実務と認めています。
3.衛生管理者の資格を取得する方法
この項では、衛生管理者の資格を取得する方法について解説します。ぜひ、参考にしてください。
3-1.衛生管理者の種類
衛生管理者には、第一種と第二種があります。第一種はすべての職場で衛生管理を行える資格です。第二種は、小売業など危険を伴う仕事が少ない職場で、衛生管理の仕事を行うことができます。いきなり第一種を取得することもできますし、第二種を取得してからさらに実務経験を積んで試験を受け、第一種へステップアップすることも可能です。
3-2.試験以外の方法で衛生管理者の資格を取得する方法
衛生管理者の資格を取得するには、前述した通り試験を受ける方法以外に、医師・薬剤師・保健師などの資格を取得して各都道府県の労働局に申請する方法があります。これらの資格を取得していれば、試験を受ける必要はありません。
3-3.労働衛生の実務経験について
前述の通り、衛生管理者の資格試験を受けるには、労働衛生の実務経験が必要です。その期間については、資格区分と学歴によって異なります。詳しいことは、安全衛生技術試験協会のホームページから確認してください。業務に従事していたという証明書も、ホームページからダウンロードできます。これに必要事項を記入し、会社の担当者から証明印をついてもらいましょう。なお、退職した会社でも担当者から証明印をもらうことができます。「今の会社では労働衛生の業務に就いていないけれど、前の会社では就いていた」という場合は、問い合わせてみましょう。
3-4.資格試験の日程や申し込み方法
衛生管理者の試験は、全国の安全衛生技術センターで毎月行われています。国家試験の中ではもっとも試験回数が多いと言えるでしょう。東京や大阪など大都市にあるセンターでは、月に複数回試験が行われるので、その気になれば1か月に2回試験を受けることもできます。回数などに制限はありません。安全衛生技術センターが遠方という人向けに、年1回出張試験も行われています。
試験を受けたい場合は、各安全衛生技術センターで配布されている願書に必要事項を記入し、実務経験を証明する書類と学歴証書(卒業証書など)を添付して、試験を受けたい安全衛生技術センターに送付しましょう。電子申請は受けつけていません。試験の詳しい日程やセンターの住所は、安全衛生技術試験協会のホームページに記載されています。
なお、試験は毎月行われるため、会場がいっぱいになった時点で締め切られてしまうので、注意してください。土日に試験を受けたい場合は、受け付けが始まってすぐに申し込むとよいでしょう。試験の1か月前から募集は開始されます。受験料は、第一種・第二種とも6,800円です。
3-5.試験内容
衛生管理者の試験は、
- 労働衛生
- 関係法令
- 労働生理
以上の3科目です。第一種・第二種共に科目は共通しています。ただし、第二種は有害業務に関する労働衛生や法令は出題されません。また、第二種を取得した後で、第一種の試験を受ける場合は労働生理の試験が免除され、労働衛生・関係法令では有害業務に関する問題だけが出題されます(特例第一種衛生管理者試験)。試験は6割以上の得点で合格になりますが、1科目でも4割以下の得点ですと不合格です。
3-6.合格率と勉強方法
衛生管理者の試験は、第一種・第二種とも合格率が50%以上とかなり高くなっています。しかし、何度も試験を受けることができれば、必然的に合格率も上がってくるでしょう。試験が簡単というわけではありません。衛生管理者の勉強方法は、独学や通信教材の利用が一般的です。書店で販売されている参考書は、過去問題集と参考書が一冊にまとめられているものありますが、初めて試験を受ける場合は、別々になっているテキストのほうがよいでしょう。
4.労働衛生の実務に関するよくある質問
Q.労働衛生実務を行った時の雇用形態などは関係ありませんか?
A.はい。パートでも派遣でも、労働衛生の実務を行っていれば衛生管理者の受験資格を満たすことができます。
Q.看護師の場合は、病院に勤めていても労働衛生の実務を行ったことになるでしょうか?
A.はい。なります。
Q.従業員50名以上が所属している場合は衛生管理者の選任義務があるそうですが、雇用形態は関係ありませんか?
A.はい。パート49人に正社員1名でも選任義務はあります。
Q.衛生管理者は、転職等に有利ですか?
A.はい。大企業ほど有資格者を必要としています。第一種を取得しておけば、より有利でしょう。
Q.例えば、10年前に労働衛生の実務を行っており、その後は全く実務経験がない場合も衛生管理者の試験は受けられますか?
A.実務経験に期限はありません。証明ができれば問題ないでしょう。
おわりに
今回は労働衛生の実務について解説しました。実務も幅広いので、「これは労働衛生の実務に当たるのか?」と悩んだ場合は、各都道府県の労働基準局などに問い合わせてみましょう。衛生管理者の補佐等をしている場合ならば、間違いありません。衛生管理者の資格を取得したい場合は、職場に事情を説明し、積極的に労働衛生の実務に携わりましょう。