有害業務の健康診断について!労働基準法から派生した労働安全衛生法

従事者に対し、安全かつ健全な労働環境を守ることは事業者の義務です。業務を円滑に遂行するためにも、環境整備は急務となります。さまざまな業務形態がある中で、取りわけ配慮したいのは、有害業務従事者の健康です。有害業務従事者が健康を損ねては企業の信頼度を揺らぎ、資質をも疑われる事態となります。
有害業務に該当しているかわからない。どのような健康面でのバックアップがあるか知りたい。そうした疑問、よくわかります。今回は、有害業務従事者が守られるべき規則や健康診断についてです。そもそも、有害業務とは何かを知らない方が多いこともあるでしょう。

  1. 有害業務とは何か?
  2. 有害業務の規則
  3. 有害業務と安全衛生につちえ
  4. 有害業務や衛生管理者でよくある質問
  5. まとめ

この記事を読むことで、有害業務について知り、有害業務従事者の安全を守ることができるようになります。有害業務斡旋をしている業者も守るべき規則について知り、円滑な事業継続に生かすことができるでしょう。安全衛生などについても知ることができます。

1.有害業務とは?

まずは、有害業務の定義や労働安全衛生法についてご紹介します。有害業務従事者の安全を守るためにある法律の歴史なども学び、有害業務斡旋をするために必要な知識を得ることができるでしょう。

1-1.労働安全衛生法による有害業務とは?

有害業務に該当する業務には、労働安全衛生法で定めがあります。以下、労働安全衛生法規則13条第1項第2号が掲げる有害業務の抜粋です。

  1. 特定業務・有害業務等のサイト
  2. 一般社団法人 労働衛生協会
  • 多量の高温物体取り扱いがある、または著しい暑熱箇所での業務
  • 多量の低温物体の取り扱いがある、または著しい寒冷地での業務
  • 気圧異常を受ける場所での業務
  • ラジウム放射線やX線などの有害放射線の影響を受ける可能性がある業務
  • 土石や獣毛、または粉末の飛散が激しい場所での業務
  • 身体に激しい振動がある業務
  • 介護や患者移送に伴う重量物取り扱いがある業務
  • 激しい騒音を伴う現場での業務
  • 深夜業に該当する業務
  • 水銀や硫酸など有害物質の取り扱いが必要な業務
  • 鉛・水銀・塩酸・硝酸など有害ガスや蒸気発生を伴う業務
  • 粉塵の飛散がある場所での業務
  • 病原体で汚染する恐れが高い業務

上記サイトから抜粋して紹介していますので、詳しく知りたい方は参照してください。

1-2.労働安全衛生法の歴史・目的・必要性について

1972年、従事者の安全と健康確保を目的に、労働安全衛生法は制定されました。快適に従事することができる職場環境を作り出すことも目的です。その後、幾多の改正が行われ、現在の労働安全衛生法があります。
労働基準法では、労働者の権利や待遇を主張できることを定めており、従事者の安全と衛生について記載した項目も盛り込まれていました。労働基準法からこの部分だけをピックアップして詳細かつ充実したものにし、新たな法律として制定したのが、労働安全衛生法です。
化学物質などによる健康被害・労災防止処置などの就業規則・安全衛生管理体制に定めたものは労働安全衛生法第3章にあります。

従業員数にかかわらず、事業者には適用される法律です。従業員数50人以上の事業所では、衛生管理者を選び、安全衛生委員会の設置も行う必要があります。パート勤務であっても、正規雇用であっても関係なく、事業者には選任義務が生じるのです。

2.有害業務の規則

事業者に対し、有害業務従事者の健康を守るために、義務付けている事項があります。健康や危険を伴う業務についてです。

2-1.有害業務従事者の健康診断

有害業務従事者の健康診断について、労働安全衛生法第66条で規定されています。

2-1-1.健康診断の回数や時期

6か月に1回の特殊健康診断が義務で、従事者の健康と安全に配慮しなければなりません。1年に1回レントゲンなどの一般健康診断を行う場合もあります。
健康診断実施時期は、春と秋の2回です。健康診断結果は事業所にて5年間保管することになっています。健康診断にかかわる費用負担は、従事者にはありません。事業所に義務付けられているものであり、事業所の負担で行われます。
有害業務従事者の特殊健康診断を詳細に記したものは、厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署が発表していますので、ぜひ参考にしてみてください。

2-1-2.産業医によるストレスチェックも実施する

2015年からは、厚生労働省が定めた産業医と呼ばれる医師と保健師による、ストレスチェックも導入されているのをご存じですか?精神不安は肉体的不調も引き起こします。従事者の心理状態を把握し、労働環境の見直しなどに生かされるものです。ストレスチェックの結果は個人情報として、事業者に開示されることはありません。集計結果として報告されます。

2-1-3.事業者が健康診断をしなかった場合

従事者の健康診断を行うのは、労働安全衛生法で定められた事業者の義務です。適切に健康診断を行わなかった・実施を怠った場合は、義務違反罰則として50万円以下の罰金が科せられます。
一方、従事者が事業所が指定する健康診断を受けることを拒否した場合の罰則は、特別な定めがありません。しかし、健康かつ安全な労働環境維持のため、拒否した従事者を懲戒処分することもできます。

2-1-4.健康診断での異常が見つかった場合

万が一、健康診断で何らかの異常が発見された場合、産業医と相談して面談を行います。精密検査を受けるように勧められるでしょう。業務制限を受ける健康状態の従事者には、業務調整を行って健康を守ることも大切です。調整過程で大きな役割を持つのが、衛生管理者となります。産業医との面談調整も行う役割です。

2-2.有害業務従事者の業務制限

労働安全衛生法では、有害業務従事者の業務制限を定めています。特に、妊娠中または産後1年に満たない女性は、有害業務に従事することができません。加えて、上記に該当しない女性であっても、有害業務に就くことはできないと定めてあります。
また、満18歳にならない年少者は、有害ガスや化学物質などを取り扱う危険有害業務に従事することはできません。抗内での労働も禁止されています。

3.有害業務と安全衛生について

有害業務従事者は健康を損ねる恐れのある仕事であり、労災など事故に巻き込まれる可能性も高いものです。命にかかわることも想定しておく必要があります。事業者に対し、従事者の安全確保を目的にした「安全衛生教育」を行うことで、職場の安全性を向上することができるのです。

3-1.安全衛生教育について

従事者が安全かつ健康に勤務できる環境を作り出すことが、安全衛生教育の意味です。事業者は安全衛生教育を受けることが義務付けられており、受けた教育は従事者へ伝えて指導していきます。

3-1-1.安全衛生教育はなぜ必要なのか?

作業現場では、常に労災の危険性を考慮しなければなりません。労災は増加傾向にあり、死亡する事例も報告されています。安全衛生教育が重視されるようになった背景には、事故検証結果を分析した結果を受けてのこと。なぜ事故が起こったのかを検証した際、安全衛生教育をしっかり行っていれば防ぐことができた事例が多かったためです。

3-1-2.安全衛生教育の内容とは?

労働安全衛生法では、安全衛生教育の内容を定めております。

  • 安全管理者向け教育
  • 雇用時の教育
  • 作業内容変更時の再教育
  • 特別教育
  • リーダー教育
  • 危険有害業務従事者向け教育

職種により内容も変わり、危険度に応じてより詳細な教育が必要です。大切なのは、事業内容にしっかり適合した内容かどうかということ。安全衛生教育の内容は、実務に反映されるよう、事業者はよく把握して従事者へ教育していくことが義務です。

3-2.衛生管理者について

労働安全衛生法で定められている資格は、総括安全衛生管理者・安全管理者・作業主任者、そして衛生管理者があります。

3-2-1.衛生管理者の選任義務と資格取得

従業員数50人以上の事業所では、労働安全衛生法に基づく衛生管理者を選任するのが義務です。衛生管理者は、実務経験を一定期間積んだ者が、資格試験に合格後に得られる資格とされています。
有害業務や高所作業などの特定業種で危険度が高いとされているものには、リーダーにも教育を行うことが必要です。万が一の事故に備え、安全衛生教育は必ず受けるようにしてください。

3-2-2.衛生管理者の役割とは?

労働安全衛生法の定めでは、下記4項目に役割を絞っています。

  • 責任体制をはっきりする(事故発生時に衛生管理者が指示を出します)
  • 従事者の安全と健康を守る(従事者の健康状態などを把握します)
  •  快適な業務環境を作る(従事者が快適な環境で勤務することができるか、改善点はないかなどをチェックします)
  • 活動促進と労災防止(事故を未然防止する役割を担っています)

衛生管理者に問われるのは、管理能力の高さです。即戦力となることも必要でしょう。そのため、一定期間の従事者であり、作業内容や作業現場についての知識をしっかり持っている者を選任することが大切です。

4.有害業務や衛生管理者でよくある質問

すべての人が安全かつ健康的に働くことができるよう、有害業務や衛生管理者について把握しておきましょう。よくある質問をご紹介しますので、職場改善に役立ててください。

4-1.衛生管理者の職場巡視とは?

従事者の健康面をフォローすることだけが、衛生管理者の役割ではありません。緊急避難経路がしっかり確保できているか・障害物がないか・照明の明るさなども職場巡視で確認していきます。衛生管理者は確認すべき項目をチェックリスト化し、週1回は職場巡視を実施してください。

4-2.職場改善点が発覚した場合は?

衛生管理者が改善点を見つけた場合、事業者に報告しなければなりません。事業者に改善してもらうためには、改善しないことで起こる不利益などを伝えるといいでしょう。罰金などの可能性も伝えます。従事者との話し合いを持ち、職場全体で改善に向けた動きをすることが大切です。

4-3.労災を未然に防ぐためにできることとは?

労災は、人為的問題も潜んでいます。人間関係に何らかのトラブルがある場合、精神を病んでしまうケースも後を絶ちません。従事者間のコミュニケーションがスムーズにできるよう、働きやすい環境を見直してください。また、社内規則にも目を向け、時間外労働なども過剰にならないか・強制時間外労働を強いられていないかなども把握しておくことが大切でしょう。

4-4.衛生管理者が不在または退職する場合は?

衛生管理者は、自分が不在時や退職する際に、代理人を立てなければなりません。同じ衛生管理者の資格を有する者に引き継ぎを行います。国家資格の衛生管理者がいない場合、保健衛生業務担当または労働衛生コンサルタントへ依頼しましょう。資格のない者を代理人にする場合、労働局長の許可を得るようにしてください。

4-5.衛生管理者の合格率は?

衛生管理者は国家資格で、とてもやりがいのある業務です。国家資格試験の中では中レベルの難易度だとされています。独学で勉強するより、短期集中コースを利用して受験する方がスムーズです。初回試験で合格するのは、受験者全体の4分の1。短期コースでしっかり準備した方が合格の可能性が高いでしょう。

まとめ

有害業務従事者は、安全と健康が守られた快適な職場で働くことが必要です。そのために、事業者は年2回の健康診断を実施し、従事者の健康や精神面に配慮することが義務付けられています。事業者が衛生管理者を選任し、職場改善や健康管理を行うことで、誰もが気持ちよく働ける環境を作り出すことができるでしょう。