特定元方事業者とは?指名される責任者になるための知識を習得しよう

「特定元方事業者」とは何なのか、言葉は知っていても意味について詳しく知らない人は多いです。建設業や造船業など特定事業に関係する特定元方事業者には決まりがあります。何も知らないまま特定事業にたずさわっていると仕事にミスが出てしまいがちです。そこで、特定元方事業者とは何なのか、特定元方事業者の事業開始報告や必要な責任者・有資格者など詳しく説明しましょう。

  1. 特定元方事業者とは
  2. 特定元方事業者の講ずべき措置
  3. 特定元方事業者の事業開始報告について
  4. 特定元方事業者における責任者とは
  5. 特定元方事業者に関してよくある質問

この記事を参考にすれば、特定元方事業者の基礎知識を身につけることができ、関連する資格取得のための情報を得ることができます。特定元方事業者について知りたい方は必見です。

1.特定元方事業者とは

特定元方事業者は労働安全衛生法の保安管理に関係する項目です。安全・安心な作業をするためにも、特定事業に関する特定元方事業者について把握しておかなければなりません。これから、特定元方事業者の概要と元方事業者との違いを解説します。

1-1.特定元方事業者の概要

仕事量や範囲が広いと1つの事業者だけでは手に負えません。そこで、事業者はほかの事業者へ仕事の請負を依頼します。特定元方事業者とは、元方事業者のうち、建設業や造船業といった特定業種に属する事業者のことです。また、特定元方事業者には統括管理が義務づけられています。なぜなら、建設業・造船業では同じ場所でいくつもの違う事業者・労働者が混在しているからです。きちんと統括管理をおこなわなければ労働者をまとめ指示することができません。

1-2.元方事業者との違い

元方事業者は1か所でおこなう事業内容の一部を下請負人に請け負わせている事業者です。そして、残りの仕事は自らおこないます。つまり、特定事業をおこなうかおこなわないかの違いが、元方事業者と特定元方事業者の違いです。

2.特定元方事業者の講ずべき措置

労働安全衛生法において、特定元方事業者の講ずべき措置が定められています。一体、特定元方事業者の講ずべき措置とはどんな内容になっているのでしょうか。

2-1.労働安全衛生法に基づく、講ずべき措置とは

特定元方事業者は労働者や関係請負人の労働者が同一の場所で安心して作業できるように努めなければなりません。起こると考えられる労働災害を防止するために定められたのが「特定元方事業者の講ずべき措置」なのです。主な内容としては、以下の3項目が挙げられます。

  • 協議組織の措置および運営をおこなうこと
  • 作業間の連絡および調整をおこなうこと
  • 作業場所を巡視すること

また、特定元方事業者の講ずべき措置は労働安全衛生法第30条第1項で確認できます。ぜひ、以下のURLをチェックしてみてください。

労働安全衛生法:http://ur0.link/xLE0

2-2.特定元方事業者の講ずべき措置概要

それでは、特定元方事業者の講ずべき措置についてもっと掘り下げてみましょう。労働安全衛生法をチェックしてみると、講ずべき措置は以下のとおりです。

  1. 協議組織の設置、運営
  2. 作業間の連絡、調整
  3. 作業場所の巡視
  4. 関係請負人のおこなう安全衛生教育に対する指導、援助
  5. 仕事の工程に関する計画および機械設備等の配置に関する計画の作成および機械、設置等を使用する作業に関する指導
  6. 上記の1~5のほか、特定元方事業者および関係請負人の労働者の作業が、同一の場所においておこなわれることによって生ずる労働災害を防止するため必要な事項

また、生ずる労働災害を防止するための必要な事項には以下の項目があります。

  • クレーン等運転について合図の統一
  • 事故現場等の標識の統一等
  • 有機溶剤等容器の集積箇所の統一
  • 警報の統一等
  • 避難等の訓練実施方法等の統一等
  • 周知のための資料の提供等

3.特定元方事業者の事業開始報告について

特定元方事業者が当該作業をおこなう際、必ず当該場所を管轄する「労働基準監督署長」に事業開始報告を届け出しなければなりません。では、特定元方事業者の事業開始報告書とは何なのか、目的や様式について詳しく説明します。

3-1.特定元方事業者の事業開始報告とは

労働安全衛生法において、特定元方事業者は労働者および関係請負人の労働者の作業が同じ場所においておこなわれるとき、事業開始報告書の提出が義務づけられています。提出先は所轄労働基準観察署長です。作業の開始後、遅滞なく必ず提出しなければなりません。事業開始報告書には以下の内容を記載する必要があります。

  • 事業の種類、事業場の名称と所在地
  • 関係請負人の事業の種類、事業場の名称と所在地
  • 統括安全衛生責任者を選任しなければならない場合、その旨および統括安全衛生責任者の氏名
  • 元方安全衛生管理者を選任しなければならない場合、その旨および元方安全衛生責任者の氏名
  • 店社安全衛生管理者を選任しなければならない場合、その旨および店社安全衛生管理者の氏名

3-2.特定元方事業者の事業開始報告の目的

特定元方事業者の事業開始報告書は常時従事する労働者が10人以上の場合に提出が義務づけられています。ただし、10人以内であっても混在作業時には報告書の提出が必要です。建設業・造船業といった特殊事業をおこなう現場だからこそ、労働者の安全を守るために報告書が必要になります。誰が事業場の責任者になるのか、事業場の種類や所在地をきちんと報告することで管理しやすい環境になるのです。

3-3.特定元方事業者の事業開始報告様式

特定元方事業者の事業報告書といってもどんな様式なのか、書き方がわかりませんよね。事業開始報告書は、以下のURLからダウンロードできます。また、特定元方事業者の事業開始報告書の記入例は各都道府県の労働局で確認できるでしょう。参考として福島労働局の記入例をピックアップしておきます。

労働基準関係各種様式:http://www.hiroroki.jp/new_page_35.htm
福島労働局 記入例:http://ur0.link/xLyz

4.特定元方事業者における責任者とは

分割発注工事など、複数の特定元方事業者が事業をおこなう際は発注者が責任者を指名しなければなりません。責任者は現場の安全を確保するために必要な存在です。

4-1.特定元方事業者に必要な責任者

特定元方事業者に必要な責任者は主に、「統括安全衛生責任者」「元方安全衛生管理者」「店社安全衛生管理者」と3つあります。現場における従事人員などによって区分されているのです。

4-1-1.統括安全衛生責任者

統括安全衛生責任者は1か所でおこなう作業に従事している労働者数が常時50人以上の場合に選任される責任者です。一定の橋梁(きょうりょう)の建設などでは労働者数が常時30人以上の場合に選任されます。主な職務は元方安全衛生管理者の指揮や元請け業者が講ずべき措置の統括管理です。選任要件はありませんが、安全衛生教育がなされている者が好ましいとされています。

4-1-2.元方安全衛生管理者

統括安全衛生責任者を選任した場合、補佐する立場として働くのが「元方安全衛生管理者」です。主な職務は、統括安全衛生責任者の補佐、および技術的事項の管理になります。ほとんどの場合、元請負業者の副所長などが選任されることが多いです。また、選任要件はありませんが、理科系の大学卒業者が大半を占めています。

4-1-3.店社安全衛生管理者

店社安全衛生管理者は1か所でおこなう作業のうち、主要構造部が鉄骨造または鉄骨鉄筋コンクリート造の建築物の建設作業に関係している責任者です。労働者数が常時20人以上~50人いないの場合に選任しなければなりません。ただし、統括安全衛生責任者と同じく、一定の橋梁(きょうりょう)の建設など、労働者数が20人以上~30人以内になります。主な職務内容は毎月1回の作業現場の巡察、作業の種類やその他作業の実地状況の把握、協議組織の会議への参加などです。選任要件はありませんが、安全衛生の実務経験がある者が選ばれます。

4-2.特定元方事業者に必要な有資格者

特定元方事業者に必要な資格はありません。しかし、責任者に選任されるには労働安全衛生法を熟知し安全衛生教育を受ける必要があります。責任者になるために必要な講習と取得しておいたほうがいい資格を紹介しましょう。

4-2-1.統括安全衛生責任者講習

統括安全衛生責任者として働きたい方は、統括安全衛生責任者講習あるいは現場管理者統括管理講習の受講が好ましいです。統括安全衛生責任者講習は建設業においては「建設業労働災害防止協会」、造船業においては「地方運輸局」「全国造船安全衛生対策推進本部」で開催されています。開催スケジュールは各地方によって異なるので注意してください。受講料はテキスト代を含め、およそ1万円かかります。

建設業労働災害防止協会:http://www.kensaibou.or.jp/seminar/

4-2-2.現場管理者統括管理講習

現場管理者統括管理講習は統括安全衛生責任者講習と同じく、建設業労働災害防止協会などで開催されています。2日間にかけて講座がおこなわれ、労働災害の現状や安全衛生の推進、特定元方事業者の責務などを学ぶ内容です。支部よりも本部で開催されることが多いため、必ずHPでチェックしてください。

4-3.衛生管理者

必ずしも必要というわけではありませんが、「衛生管理者」の資格を持っておいたほうが有利です。衛生管理者は労働安全衛生法に基づいています。労働環境の衛生的改善や予防処置、事業場の衛生全般の管理をおこなう国家資格の1つです。事業場の衛生管理についての専門知識を持っている証拠になるため、ほとんどの現場で重宝されます。ちなみに、衛生管理者の資格には衛生工学衛生管理者、第1種衛生管理者、第2種衛生管理者に区別されるのです。衛生管理者の資格・試験概要については以下のURLを確認してください。

安全衛生技術試験協会:http://www.exam.or.jp/exmn/H_shikaku502.htm

5.特定元方事業者に関してよくある質問

特定元方事業者に関してよくある質問を5つピックアップしました。わからない点があれば、講習を実施している機関に問い合わせてみましょう。

5-1.特定事業場とは?

特定事業場とは政令で定めている特定施設がある工場・事業場のことです。水質汚濁や振動・騒動規制など規制基準の対象となる施設が特定施設になります。

5-2.特定元方事業者は作業終了時も報告しなければならないのか?

特定元方事業者の報告書は作業開始時だけです。報告書には作業終了予定日時の記入が義務づけられているため、終了報告は必要ありません。

5-3.統括安全衛生責任者講習では何が学べるのか?

統括安全衛生責任者講習では、主に統括安全衛生責任者としての教育がおこなわれます。職長のためのリスクアセスメント教育から建設業等における熱中症予防、酸素欠乏・硫化水素危険作業特別教育などです。

5-4.統括安全衛生責任者と総括安全衛生責任者の違いとは?

統括安全衛生責任者は「建設業」と「造船業」といった特定事業に選任される「現場監督者」のことです。一方、総括安全衛生責任者は一般的に事業の実施を統括管理する「支店長」「工場長」を指しています。

まとめ

建設業や造船業など特定事業の元方事業者が「特定元方事業者」です。特定元方事業者は一定以上の労働者数になると責任者を選任する必要があります。責任者として働くために必要な資格はありません。しかし、まったく知らない人よりも衛生管理者や統括安全衛生責任者講習など受講しておいたほうが選任されやすいです。安全教育を受けているという証拠があれば、責任者として働けますよ。特定元方事業者の知識を身につけて、関連資格の取得を目指してください。