特定化学物質とはどんなもの?取り扱うために必要な資格は?

特定化学物質とは、労働安全衛生法によって指定された健康被害を起こす可能性の高い化学物質の総称です。第1類~第3類に分類されており、製造や取り扱いを行う事業所では、特定化学物質作業主任者が作業方法などの指導を行います。特定化学物質を扱っている工場に勤務している人の中には、作業主任者の資格を取得するように求められている人もいるでしょう。
そこで、今回は特定化学物質や特定化学作業主任者について解説します。

  1. 特定化学物質の定義
  2. 特定化学物質の取り扱いにかんする資格について
  3. 特定化学物質に対するよくある質問
  4. おわりに

この記事を読めば、特定化学物質の種類や作業主任者の取得方法もバッチリ分かるでしょう。特定化学物質作業主任者の資格取得を目指している方も、ぜひ読んでみてくださいね。

1.特定化学物質の基礎知識

はじめに、特定化学物質の種類や取り扱い方、規制の基準などを解説します。どのような物質が指定されているのでしょうか?

1-1.特定化学物質とは?

特定化学物質とは前述のとおり、労働安全衛生法および労働安全衛生法施行令によって定められている、労働者に健康被害を及ぼす可能性の高い化学物質の総称です。平成28年には特定化学物質障害予防規則が定められ、取り扱い方や分類方法が一部変わりました。危険度によって第1類~第3類にまで分類されており、最も危険度の高い第1類に指定されている化学物質は、厚生労働省の許可がないと、製造することができません。

1-2.特定化学物質の分類について

前項でご説明した通り、特定化学物質は危険度によって1類~3類に分類されています。1類が最も危険度が高く、製造や取り扱いを行うには専用の設備が必要です。また、混合物質でも、1類に分類されている化学物質が総重量の1%以上含まれている場合は、第1類特定化学物質と同じものとして扱われます。
2類・3類に指定されているものは1類ほどの危険性はありませんが、それでも取り扱いや製造する際の設備は、化学物質障害予防規則に定められている決まりに沿って行わなければなりません。特定化学物質に指定されている物質の一部を、以下に紹介しましょう。

  • 1類:ジクロルベンジジンおよびその塩・塩素化ビフェニル・ジアニシジンおよびその塩・ベリリウムおよびその化合物など
  • 2類:アクリルアミド・塩化ビニル・塩素・クロロホルムなど
  • 3類:アンモニア・一酸化炭素・塩化水素・硝酸など

1-3.特定化学物質の怖さと規制

特定化学物質は、微量の曝露(ばくろ)で発がん性をはじめとする遅延性障害が現れたり、大量に化学物質が漏れだし、それを吸引したり皮膚に触れたりしたことによる急性障害が発生したりします。急性障害は意識の消失や悪心・吐き気などすぐに症状が分かるので、対処することもできますが、遅延性障害の場合は仕事をし続けて何十年もたって、ようやく症状が現れることも珍しくありません。そのため、特定化学物質を吸引したりしないように排気装置や換気装置をつけ、なおかつ年に1度の健康診断とは別に健康状態を会社がチェックし、健康被害を出さないように予防することが大切です。
ちなみに、特定化学物質を製造したり取り扱ったりする事業所でありながら、法律等で定められた規制を守らずに作業を行った場合、労働安全衛生法に基づいて罰則を受けます。

2.特定化学物質の取り扱いにかんする資格について

この項では、特定化学物質を取り扱ったり製造したりする事業所に必要な有資格者や、取扱の際の注意点などを解説します。どのような資格が必要なのでしょうか?

2-1.特定化学物質の取り扱いについて

特定化学物質を取り扱う場合は、特定化学物質障害予防規則に基づいて行います。また、第1類・第2類に指定されている特定化学物質のうち、がん原性物質またはその疑いのある物質は特別管理物質に指定され、取り扱う際には、注意事項を事業所の分かりやすい場所に明記する必要があるのです。また、空気中濃度の測定結果や、取り扱う従業員の健康診断の結果は、30年間保管しなければなりません。さらに、これらを扱っていた事業所が事業を廃止する場合は、最寄りの労働基準監督署長に届出が必要です。

2-2.特定化学物質にかんする資格

特定化学物質を取り扱っている事業所は、特定化学物質作業主任者を選任する必要があります。特定化学物質作業主任者は、特定化学物質を取り扱う事業所において、作業方法の指導や作業環境の改善などを行うことが主な職務です。国家資格になりますので、取得しておけば転職や就職に有利でしょう。なお、特定化学物質を取り扱うだけならば資格は必要ありません。

2-3.特定化学物質作業主任者を取得する方法

特定化学物質作業主任者を取得するには、「特定化学物質及び四アルキル鉛等作業主任者技能講習」という講習を受講し、修了試験に合格すれば取得できます。受講資格などは定められておらず誰でも受講することができるので、機会があれば取得しておきましょう。講習は、東京労働基準協会連合会が主催しており、申し込みもホームページ内で行うことができます。1年に何度か行われますので、まずはホームページを確認してください。
講習時間は修了試験を含めて13時間です。なお、お住まいの地域の労働基準協会連合会のホームページでも、講習会の日程等は確認や申し込みができます。講習費用は11,900円で、別途テキスト代が必要です。

2-4.衛生管理者について

衛生管理者とは、従業員が安全かつ衛生的に仕事が行えるように職場環境を整える仕事を担うための資格です。職種にかかわらず、従業員が50名以上いる職場では、選任が義務づけられています。
特定化学物質を取り扱う職場では、特定化学物質作業主任者と協力して職場環境を改善するほか、特別健康診断の実施や診断結果の管理なども仕事になるでしょう。なお、衛生管理者には第1種と第2種があり、特定化学物質を取り扱う事業所で選任を受けるには、第1種の資格が必要です。
第1種衛生管理者の資格を取得する方法は、こちらの記事にも詳しく記載されているので、ぜひ併せて読んでみてください。

3.特定化学物質に対するよくある質問

Q.特定化学物質は、危険物のように指定数量はありますか?
A.定められていません。混合物に対しては濃度の指定はありますが、それ以外は少量でも法律に沿って取り扱う必要があります。

Q.特定化学物質を扱っている事業所が廃業した場合、なぜ届出が必要なのですか?
A.遅延性障害が現れた場合、その原因を特定するために必要になります。必ず届け出てください。

Q.従業員50名以下の事業所は誰が衛生管理を行うのでしょうか?
A.安全衛生推進者を選任し、その人が行うのです。特定化学物質を取り扱う職場での職務の内容は、安全管理者と衛生管理者の業務を併せたようなものになり、特定化学物質作業主任者と協力し、健康診断の結果管理や安全教育などを行います。

Q.特定化学物質は個人では取り扱えませんか?
A.はい。個人で製造などはできませんので注意してください。なお、薬剤師や毒物劇物取扱責任者の資格を取得していると、容量を限って取り扱いや保管が可能な物質もあります。

Q.空気濃度の測定とはなんですか?
A.空気中にどれだけ特定化学物質が漏えいしているかを測定する検査になります。特定化学物質を取り扱ったり製造したりしている業者は、定期的に作業を行っている場所の空気を採取し、濃度を測定してその結果を保管しておかなくてはなりません。

4.おわりに

いかがでしたか? 今回は特定化学物質について解説しました。取り扱う場合は、特定化学物質作業主任者の指示によく従い、作業をしましょう。指示を無視して作業をし、労働災害が起きた場合は罪に問われることもあります。注意しましょう。