取得率83.6%が示す日本の育休制度の現状。課題は、そして今後は?
国の調査によると、女性の育児休業(育休)の取得率は、83.6%(2012年度)。数字上は、着実に定着しているように見えます。安倍首相も女性が活躍する社会の実現を掲げていますから、これからも支援策が講じられていくでしょう。ただ、もう少し育休の内情を見つめると、いろんな課題もあるようです。現状と課題に迫ってみました。
1.育休の現状
育児介護休業法では、育休は、男女を問わず労働者の権利として認められています。雇用主は、育休の申請に応じて雇用を維持しなければなりません。女性に限ってですが、取得率は83.6%。日本にも定着してきたと感じます。この点は喜ばしいのですが、一方で以下のような点も指摘されてきました。
1-1.女性の継続就業率はまだ低い
女性の育休取得率は86.3%でも、継続就業率は、まだ低いというのが実状です。第1子出産後の女性の継続就業率は、子どもの出生年が2005年から2009年である女性の場合、40%にも届いていません。育休は取得したものの、結局は、辞めてしまった女性が多いということなのでしょう。どんな理由があったのか、気になります。
1-2.男性の育児休業取得率は、わずか2%程度
育休は、男女を問わず取得できる権利があるのですが、現状はどうでしょうか。長期的には上昇傾向にあるのですが、約2%と低水準です。6歳未満の子どもをもつ家庭で、夫の家事・育児時間は、1時間程度と国際的に見ても低くなっています。育休=女性という認識が高いのが現状です。
1-3.雇用形態で取得に格差がある
25歳から34歳の雇用形態を見ると、非正規の職員・従業員の割合が高まっています。非正規の増加に伴って、育休の取得に格差が生じてきました。育休による継続就業は、正規職員の場合、2005年から2009年で43.1%。正規職員に対して、パート・派遣は同じ期間で4.0%に過ぎません。女性ではあっても、必ずしも気軽に育休ができる社会ではないようです。
2.育休がかかえる課題
育休がかかえる課題は、現状を見ただけでもよくわかったと思います。継続就業率が低いこと、男性の取得率が低いこと、雇用形態によって格差があることです。この3つ以外にもさまざまな課題が指摘されています。
2-1.横行する?マタニティハラスメント
「育児休業を取得されたら、会社にとっても職場で働く同僚にとっても迷惑だ」
残念ながら、そのように考える経営者は少なくないようです。結婚・妊娠・出産した女性を、さまざまな方法で退職に追い込んだり、降格や減給の対象にしたりする暗黙の人事制度。いわゆるマタニティハラスメントを行っている雇用主も多数存在しているといわれています。
2-2.男性の取得は抵抗がある
いくら制度上の権利だといっても、なかなか取得できる環境にはないようです。特に、男性の場合は。ある民間企業の意識調査では、男性に関する問題が浮かび上がりました。以下のような点があります。
- 男だって取得したい:調査では男性の6割が取得を希望しているのがわかりました。わずか2%の現状と比べると、あまりにも格差があり過ぎです。家庭より仕事を優先していても、育休を取得したいと思っている人も7割に達しています。
- 取得しないのは職場の雰囲気?:勤務先に男性が育休を取得できる雰囲気があるか聞いたところ、「ある」と答えたのは20数%でした。女性が取得できる雰囲気があるという回答よりも、約50ポイントも低い数値です。男性に関しては、まだ抵抗がある職場が多いということです。
- 男性の育休取得は不快:同僚男性が育休を取得することについて、5人に1人が不快だと答えました。特に、上司(管理職)の男性が取得するとなると、不快に思う割合は相対的に高くなるようです。
3.育休の今後
育休がしっかり定着するには、今後どうあるべきなのでしょうか。この点について考えてみます。まず、現状や課題のところで明らかになった改善策は、次のとおりです。
- 40%に満たない継続就業率を高める
- 男性の育休取得を促進する
- 雇用形態による格差を改善する
特に、女性の育児休業を促進するには、男性の取得率の向上がカギを握っているといえそうです。国の調べでも、夫の家事・育児時間が長いほど、妻の継続就業割合が高くなり、第2子の出生割合も高い傾向にあることがわかっています。また、パワーハラスメントは言語道断ですし、職場の雰囲気や環境づくりも大切です。さらに、以下のようなことが大切になってくるでしょう。
3-1.女性のキャリア形成
育児期は、キャリア形成するうえで、最も重要な時期にあたります。キャリア形成をどう確保していくかが重要です。女性個人の取り組みだけでなく、国の支援策や企業の支援の努力が必要でしょう。
3-2.男性の育児へのかかわりを増やす
男性が育休を取得しづらいのは、職場の雰囲気などもありますが、同時に長時間労働がネックになっています。この点を改善することが大切です。また、欧州と比べて有給休暇日数が少なく、取得率も低い傾向にあります。このため、長期休暇を取得する人も少なく、男性の育休取得を阻害する一因ではないでしょうか。こうした点の改善が求められます。
3-3.企業の取り組みで変える
育休の促進には、国、自治体、企業、そして従業員それぞれに果たすべき責任や役割があります。この中で、企業の努力こそ、改善の一番の近道ではないでしょうか。
一定規模以上の事業者には、職場の環境改善などの推進役となる衛生管理者(国家資格)を置かなければなりません。試験には、育休に関する問題も出題されています。ぜひ、企業で衛生管理者の育成を進める努力をしていただきたいものです。教育機関もありますから、担当者を派遣されてはいかがでしょうか。
4.まとめ
日本における育休の現状を見ながら、課題や今後のあり方を考えました。現状は、女性の育休取得率は高いのですが、以下のような課題を指摘しています。
- 継続就業率が低い
- 男性の取得率が低い
- 雇用形態で格差がある
したがって、改善策は「低い」ものを高くし、「(格差が)ある」所をないようにすることです。さらに、次のようなこともあります。
- 女性のキャリアの形成
- 男性の育児へのかかわりを増やす
- 企業の取り組みで変える
日本の成長戦略の1つに、女性の就業率向上が掲げられました。具体的には、管理職など指導的に地位に女性が占める割合を、2018年度までに30%以上とする目標や、育児休業からの職場復帰・再就職の支援などがあります。育休が本当に定着したといえる日を、1日も早く迎えたいものです。