アーク溶接の安全対策とは?溶接中の危険とともにご紹介します。

アーク溶接とは、放電現象を利用して金属同士を接着させる溶接法です。
鉄系材料の溶接に最も多く用いられる方法であり、強度の高い製品を作れます。
しかし、その反面安全対策を怠ると事故が発生しやすいのです。
そこで、今回はアーク溶接を行う際の安全対策についてご紹介します。
いったいどのようなことに注意すれば、溶接を行うときの事故をより防ぐことができるのでしょうか?
衛生管理者や安全管理者の方には、ぜひ読んでいただきたい記事です。

  1. アーク溶接とは?
  2. アーク溶接を行っている最中に発生しやすい健康被害とは?
  3. アーク溶接による健康被害を防ぐための安全対策とは?
  4. おわりに

1.アーク溶接とは?

アーク溶接とは、アーク放電と呼ばれる空気中の放電現象を利用して同じ金属をつなぎ合わせる溶接方法です。
溶接したい母材と電極に発生させたアークによって生じる高熱によって、分子や原子レベルで融合、一体化する方法になります。
単に熱による溶接法とは異なり、溶接速度も早いうえに強度も高いです。
適切に行えば、大変有効な溶接方法でしょう。
しかし、その反面健康被害が起こりやすいのです。

2.アーク溶接を行っている最中に発生しやすい健康被害とは?

では、アーク溶剤を行っている最中に発生しやすい健康被害とは、どのようなものでしょうか?
この項では、その一例をご紹介します。

2-1.溶接中に発生する物質による健康被害

アーク溶接は、高温で金属を溶接します。
ですから、溶接作業中にいろいろな物質が発生するのです。
その代表的なものは、ヒュームやシードルガスでしょう。
ヒュームとは、熱により気化した金属の微細な粒子のことです。
気化した金属は、空気とともに肺に入ります。
1度や2度くらいならば影響はないでしょう。しかし、アーク溶接を長期間無防備な状態で行っていると、ヒュームによってじん肺が発症する危険性があります。
じん肺とは、金属や固い繊維などを長年吸い込み続けることによって、肺の機能が低下する病気です。
症状が重くなると呼吸もままならなくなるでしょう。
シードルガスとは、溶接中に発生する金属に含まれるガスのことです。
窒素や二酸化炭素が多いですが、これも吸い込み続ければ健康に影響が出るでしょう。

2-2.光や熱による健康被害

アーク溶接中には、激しい光や高温が発生します。
ですから、強い光を見続けたり高温にさらされ続けたりすると皮膚や目に健康被害が出るでしょう。
溶接中に光を見続けてはいけないことは、溶接作業をする人ならば当然知っています。
しかし、アーク溶接中に発生する光は、ほかの溶接作業の際に発生する光よりもはるかに強力です。
ですから、溶接部がよく見えないため、つい保護具を外してしまう方もいるでしょう。その結果、目をいためてしまう方もいるのです。
また、アーク溶接に不慣れな方は溶接中に発生する高熱を甘く見ている方もいます。
ですから、服装が不十分のまま溶接をしてやけどなどを負うことがあるのです。

2-3.保護具による視野狭窄(しやきょうさく)の危険

アーク溶接を行う際は、皮膚や目を傷つけないようにしっかりと保護具をつけて行います。
安全対策を確実に行っている職場ほど、保護具は厳重になるでしょう。
しかし、濃い色のゴーグルなどをつけていると、どうしても視野が狭くなったり暗くなったりします。
ですから、溶接中にほかのものが目に入らず、落下事故などに巻き込まれることもあるでしょう。

2-4.狭い場所で作業をすることによる危険

アーク溶接は広い場所で行うわけではありません。
たとえば、建設現場では狭い場所でアーク溶接を行うこともあるでしょう。
そんなときは、熱もこもりやすくガスやヒュームによる健康被害もより受けやすくなります。
特に、狭い場所で長時間作業していると、作業場全体が高温になることもあるでしょう。
その結果、冬でも熱中症になりやすいのです。

3.アーク溶接による健康被害を防ぐための安全対策とは?

では、アーク溶接による健康被害を防ぐためには、どのような安全対策を取ればよいのでしょうか?
この項では、その一例をご紹介します。

3-1.初心者にひとりで作業をさせない

アーク溶接は、技術がいる作業です。
ですから、初心者にひとりで作業をさせるとより健康被害が発生しやすくなります。
アーク溶接に不慣れな方に作業をさせる場合は、ベテランとふたり一組で作業をさせましょう。
ほかの溶接方法はベテランであっても、アーク溶接には不慣れ、という方もいます。
溶接工の経験が長い方でもアーク溶接の経験によって判断してください。

3-1.電撃防止装置を使う

アーク溶接を行う際は、放電現象を利用します。
ですから、電気が伝わりやすい場所で作業をするときは、必ず防電装置を使いましょう。
たとえ、短期間でも同様です。
また、床がぬれていたり油で語れていたりするところでは、アーク溶接を行わないように心がけましょう。
さらに、溶接棒のホルダーの絶縁体は作業前に必ずしっかりとまかれているか確認してください。
破損しているものを使うと感電する危険があります。

3-2.狭い場所で長時間作業しない

狭い場所でアーク溶接を行うと、前述したようにそれだけ危険性が高くなります。
ですから、狭い場所でアーク溶接を行う際は、長時間続けて行わないようにしてください。
作業をする人では時間が分からない場合もあります。
安全管理者などが声かけを行いましょう。
また、作業場を整理整頓しておくことも大切です。

3-3.健康診断の結果の確認を忘れずに

衛生管理者はアーク溶接を行う方の健康診断の結果を、忘れずに確認してください。
会社であれば年1回の健康診断は義務です。
ですから、必ず毎年行うでしょう。
また、アーク溶接を行う方には必ず受けてもらってください。
必要ならばもっと短い期間で受けさせても構いません。
もし、肺の機能に問題があるならばすぐに現場の確認と改善が必要です。
じん肺は長い時間をかけて症状が出る病気。健康診断で異常値が出るようになっている場合は、症状が進んでいるケースもあります。
また、転職者の場合は前の職場で行っていたアーク溶接の影響が出ている可能性もあるのです。
その場合は、産業医とも相談して仕事を変えるなどの措置を取りましょう。
じん肺が発生すると、それは労災のあつかいになります。
溶接を行う方が何人もいて、皆肺に健康被害が出ている場合はすぐに労働基準監督署に届けたうえで、職場の改善を行いましょう。

4.おわりに

いかがでしたか?
今回は、アーク溶接の健康被害と安全対策の方法についてご紹介しました。
アーク溶接は、今や溶接の主流といってもいいでしょう。
アーク溶接を行わない現場の方が少ないかもしれません。
しかし、アーク溶接の危険度はほかの溶接作業よりもずっと高いのです。
特に怖いのが感電と熱。
狭い場所で作業をする際は、こまめに休憩を取ることを徹底してください。
また、年に1度安全管理者の主催の元、アーク溶接を安全に行うための講習会なども開くとよいでしょう。
安全に作業を行おうとすれば手間がかかります。
長いこと事故が起きていない現場では、つい気持ちがゆるんで工程を勝手に短縮してしまうこともあるでしょう。
その結果、事故が起こることも珍しくないのです。
事故が起こる前に予防をしないと、職場全体に影響が出ます。
作業員にも自分が危険な作業をしているのだという自覚を持ってもらいましょう。