労働生理とはどんな内容なの? 衛生管理者取得のポイント

労働環境の衛生改善や維持のためには、衛生管理者が必要不可欠です。一定規模以上の事業所には、衛生管理者免許を取得している者を置いておかなければなりません。より良い労働環境を整える衛生管理者資格の試験には、「労働生理」という科目が含まれています。衛生管理者になるためには、労働生理について詳しく把握することが大切です。

そこで、本記事では、労働生理の基礎知識や内容・勉強法など詳しく説明します。

  1. 労働生理とは?
  2. 労働生理の内容
  3. 衛生管理者試験と労働生理について
  4. 労働生理の勉強法
  5. 労働生理に関してよくある質問

この記事を読むことで、衛生管理者になるために必要な情報と労働生理の基礎知識を身につけることができます。衛生管理者を目指している方はぜひチェックしてください。

1.労働生理とは?

私たちの体には何種類もの臓器が入り混じっており、それぞれが正常に動いているからこそ日常生活を難なく送ることができます。しかし、労働環境によっては臓器の動きが悪くなり、日常生活が困難になるのです。そんな健康状態にかかわる労働生理について詳しく見ていきましょう。

1-1.概要

労働生理の「労働」とは体を使って働くという意味です。そして、「生理」は生きて活動するために必要な体の現象や機能のことを指しています。呼吸・消化・血液循環・体温調節・排泄(はいせつ)・代謝などが代表的な例です。つまり、労働生理とは、正常に働くために必要な体の機能のことを指します。労働環境がひどくなるほど、健康被害が起きやすくなるのです。そこで、労働者の健康を守るために必要なのが、労働生理学になります。そのため、労働環境を守る衛生管理者が労働生理学をきちんと理解しておかなければなりません。

1-2.労働生理学について

労働生理学では、労働時の健康管理に必要な人体構造・生理機能を学びます。労働者の健康を維持するために必要な内容です。主に、人体解剖学用語や基本的な人体機能・人体の正常と異常の区別などを学習することになるでしょう。学ぶべき人体機能は、循環器系・呼吸器系・運動器系・消化器系・腎臓と泌尿器系・神経系・内分泌と代謝系・感覚器系・血液系などがあります。また、ほかにも疲労の分類や職場とストレスの関係性・睡眠時の体の機能まで学ぶのです。労働生理学は第一種衛生管理者資格の取得に必要な科目でもあります。

1-3.目的・必要性

先ほども説明したとおり、労働生理学の大きな目的は労働者の健康を守ることです。人体の構造や生理機能をきちんと学ぶことで、労働における人体機能の変化がわかります。健康被害が起きそうな箇所や労働者の変化にいち早く気づき、早めの対策が立てられるのです。早期対処は被害を最小限に抑えることができます。また、すべての労働者が快適に働ける職場づくりのための施策もできるでしょう。きちんと体の仕組みを把握しているからこそ、正しい判断と処置ができるのです。

2.労働生理の内容

それでは、労働生理の内容は一体どのようになっているのでしょうか。どんな分野を学ぶのか、それぞれの内容について具体的に説明していきたいと思います。

2-1.どんな分野を学ぶのか

人間の体の中には機能ごとにさまざまな臓器にわかれています。大まかに、消化器系・循環器系・呼吸器系・泌尿器系・生殖器系・内分泌器系・感覚器系・神経系・運動器系にわけることができるでしょう。労働生理学では労働に関する人体の構造と生理機能を把握しておかなければならないため、それぞれの臓器の役割について学びます。さらに、外部環境から与えられる体への影響やストレスとの関係性・職業適性についても学ぶため、暗記しなければならない専門用語がたくさん出てくるでしょう。

2-2.それぞれの内容

労働生理で学ぶ分野の具体的な内容について説明します。特に、第一種衛生管理者を目指している方は要チェックです。

  • 循環器系:血液の循環・心臓・血圧
  • 呼吸器系:呼吸器の構造・労働時の呼吸量
  • 運動器系:筋の種類・筋の収縮の型・筋の仕事・筋の収縮とエネルギー・最大酸素摂取量・健康測定における運動機能検査の項目
  • 消化器系:栄養素の分解と吸収・胃の機能・小腸の機能・大腸の機能・肝臓の機能
  • 腎臓・泌尿器系:腎臓の機能・泌尿器系
  • 神経系:中枢神経系・末梢(まっしょう)神経系・そのほか
  • 内分泌・代謝系:内分泌系・代謝系・体温調節・体重の測定
  • 感覚器系:視覚・聴覚と平衡感覚・嗅覚と味覚・皮膚感覚・深部感覚
  • 血液系:血液の役目・血液の組成・赤血球・白血球・血小板・血漿(けっしょう)・血液型と輸血など
  • 恒常(こうじょう)性とその維持:外部環境・高所馴化(じゅんか)・気候馴化(じゅんか)
  • 職場とストレス:職場のストレスの現状・ストレスの発生要因・ストレスの生体反応など・ストレス関連疾病
  • 疲労の分類:身体的疲労と精神的疲労・動的疲労と静的疲労・全身疲労と局所疲労・疲労の経過・疲労の測定・疲労の予防と回復
  • 睡眠時の体の機能:快眠の方法・睡眠時の体の機能・睡眠不足
  • 職業適性:適正配置・高齢者の心身の特性

ほかにも、成人病・生活習慣病など身近に起こりやすい病気についても学びます。

3.衛生管理者試験と労働生理について

衛生管理者の資格を取得するためには、労働生理の学習が必要です。それでは、一体どんな試験に労働生理の分野が出題されるのでしょうか。試験内容や合格ラインなどについて詳しく説明します。

3-1.どんな試験に出るのか

衛生管理者の試験科目には、労働生理を含め、労働衛生と関係法令の3科目があります。しかし、第一種・第二種と資格の種類によって出題される科目も異なるのです。それぞれの資格に出題される科目を以下にまとめたので、ぜひチェックしてください。

<第一種>

  • 労働衛生(有害業務にかかわるもの)
  • 労働衛生(有害業務にかかわる以外のもの)
  • 労働生理
  • 関係法令(有害業務にかかわるもの)
  • 関係法令(有害業務にかかわる以外のもの)

<第二種>

  • 労働衛生(有害業務にかかわるものをのぞく)
  • 労働生理
  • 関係法令(有害業務にかかわるものをのぞく)

第一種・第二種衛生管理者ともに労働生理は必須科目です。ただし、第二種衛生管理者免許を持っている者が第一種の資格試験を受ける際は一部科目免除ができます。一部科目免除が適用された場合は労働生理が除外され、試験科目は有害業務にかかわる労働衛生と関係法令の2科目になるのです。

3-2.試験内容

試験を受ける前に、衛生管理者における労働生理の問題について具体的に把握しておきましょう。労働生理の問題数や問題例・時間について説明します。

3-2-1.問題数

労働生理の問題数は10問100点です。幅広い分野を学ばなければいけない労働生理ですが、問題はたったの10問になるため、重要ポイントを押さえているかどうかが大きなポイントでしょう。ちなみに、労働衛生と関係法令は17問150点です。すべて合わせると問題数が44問、点数は400点満点になります。

3-2-2.問題例

平成27年に出題された第一種衛生管理者試験における労働生理の問題をピックアップしてみました。

  • Q.神経系に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
  1. 神経細胞(ニューロン)は、神経系を構成する基本的な単位で、通常、1個の細胞体、1本の軸索、複数の樹状突起からなる
  2. 中枢神経系は脳と脊髄からなり、末梢(まっしょう)神経系は体性神経系と自律神経からなる
  3. 大脳の内側の髄質は神経細胞の細胞体が集合した灰白質であり、外側の皮質は神経線維の多い白質である
  4. 体性神経系には感覚器官からの情報を中枢に伝える感覚神経と、中枢からの命令を運動器官に伝える運動神経がある
  5. 自律神経系は、交感神経系と副交感神経系とに分類され、双方の神経系は多くの臓器に対して相反する作用を有している

上記問題の答えは【3】です。大脳の内側にある髄質は有髄神経線維の多い白質であり、大脳の外側にある皮質は神経細胞の細胞体が集まった灰白質になります。また、試験はすべて選択式です。過去問は試験を主催している安全衛生技術センターのホームページから無料で閲覧できます。ある程度知識を身につけたら、ぜひ過去問にチャレンジしてみてください。

3-2-3.時間

各科目による時間区分はありません。全体の試験時間が3時間になるため、時間内で上手に問題を解いていくことがポイントです。最初から苦手科目に挑戦すると時間がかかってしまいます。最初は得意分野から解いていき、残りの時間で苦手科目を解くようにしましょう。時間を上手に使うためにも、過去問を何度も解いておくことをおすすめします。

3-3.合格ライン

第一種衛生管理者の合格ラインは科目ごとに40%以上、全体の合計点が60%以上です。最低でも労働衛生で7問、労働生理で4問、関係法令で7問以上合っていなければなりません。この正解数でも合格のギリギリのラインといえるでしょう。第二種衛生管理者についても同じ合格ラインで、労働衛生で3問、労働生理で4問、関係法令で3問以上の正解数が欲しいところです。実は、合格率は第一種がおよそ55%、第二種がおよそ68%と高い数値になっています。しかし、合格率は高くてもきちんと勉強をして内容を理解しなければ合格できません。

4.労働生理の勉強法

労働生理は幅広い分野の学習が必要です。そのため、やみくもに勉強していては一向に大切な内容が把握できないままでしょう。そこで、ここでは、労働生理の試験対策や学習方法など、押さえておきたい勉強法について説明します。

4-1.試験対策

労働生理は覚えなければならない専門用語がたくさん出てきます。聞き慣れない単語ばかりなので覚えるまで時間がかかるでしょう。そのため、1日に集中して勉強するのではなく、毎日コツコツとしたほうが覚えやすいのです。また、できる限り過去問をたくさん解いてくださいね。過去に出題された問題から似ている内容が出てくることもあるので要チェックです。

5.衛生管理者と労働生理に関してよくある質問

衛生管理者と労働生理に関してよくある質問を5つピックアップしてみました。

Q.衛生管理者に受験資格はあるのか?
衛生管理者は第一種・第二種とも1年以上の実務経験が必要です。そのため、試験の申し込みには実務経験の証明書を提出しなければなりません。実務経験は労働衛生の実務に従事した者となります。

Q.労働衛生の実務内容は?
労働衛生の実務内容は、健康診断実施に必要な事項または結果の処理の業務・作業条件や施設などの衛生上の改善業務など13項目が挙げられています。詳しい内容については、安全衛生技術センターのホームページをご覧ください。

Q.試験はいつ開催されているのか?
衛生管理者の試験は毎月2~3回実施されており、第一種・第二種ともに試験日は同じです。しかし、同日に2種類の資格を受けることはできません。試験日程の詳細についてはこちら(安全衛生技術センター公式HP)をご覧ください。

Q.増えている労働生理の問題点は?
近年、労働生理で問題に上がっているのがストレスとの関係性です。残業やパワハラ・人間関係などストレスを感じない職場はほとんどないといえるでしょう。ストレスと上手に付き合えるか、ストレスを感じない職場づくりが今後の課題になります。

Q.職業性疾病とは?
特定の職業に従事することで発症率が高くなる職業病のことです。たとえば、紫外線にさらされる業務では皮膚疾患や前眼部疾患、騒がしい騒音を発する場所では難聴などの耳の疾患が挙げられます。

まとめ

労働生理は労働者たちが健康かつ快適に働ける職場をつくるために必要な内容です。人体の構造や生理機能について学ぶことで、いち早く労働者の異変に気付くことができます。職場環境による健康被害を未然に防ぐことができるのです。また、第一種・第二種衛生管理者試験の必須科目にもなっています。衛生管理者を目指している方は、労働生理について詳しく把握しておかなければなりません。ただし、学習範囲が幅広いため、試験の重要ポイントを押さえながら勉強をする必要があります。